秋の終わりと冬の始まり – 西吾妻山

ふぅ、さすがに飽きてきた。

一切経山を下り、五色沼と家形山を越えて縦走路に入ると、展望はまったく無くなった。日の光は背の高い木々に遮られて薄暗い。雲の切れ間に太陽が現れても、縦走路の地面までは届かない。土は湿っぽく、ところどころ泥濘になっている。

人の手があまり入ってないのか、歩く人が多くはないのか、笹が伸び放題に伸びていて、笹薮をかけ分けて進む。いくつものピークを超えていくので、アップダウンも地味に多い。

まだ半分も来ていない。まだまだ先は長い。

烏帽子山の山頂では西側が開けていて、これから進む道が見渡せた。東大巓から中大巓、そして西吾妻山へと続いている。しかし山頂を離れると、すぐにまた樹林帯へ入ってしまった。

昭元山を下り、東吾妻方面との分岐まで来ると風景が一変した。

秋色の湿原。点在する池塘。広々として穏やかで、まるで尾瀬や苗場山のよう。

どこまでも続く木道を歩いていく。ここまでの藪縦走路に比べて、なんと歩きやすいのだろう、そう思っていたのも最初のうちだけだった。いや、歩きやすいのに変わりはないのだが、とにかく歩いても歩いても終わりが見えてこない。

時刻は午後2時。あとまだ残り3時間はかかる。焦る時間ではないが、到着時には日が落ちているだろう。

黙々と歩くしかない。一歩を踏み出せば、一歩近づく。

人形石を通過したときには、だいぶ日も傾いていた。梵天岩で既知のルートに接続し、天狗岩で日が沈んだ。

ここまで来たら山頂にも寄っていこう。過去に登ったことがあるので山頂がどんな場所かは知っているが、それでもいちおう最高地点は踏んでおきたい。

西吾妻小屋に着いたのは、すっかり夜の帳が下りた後であった。

翌朝、夜は明けているはずだが、なんだか薄暗い。寝袋からもぞもぞと這い出て外を見ると、霧に包まれて真っ白だった。視界は数十メートルしかない。

やれやれ、こんな天気で歩くのか。車を停めた不動沢まで、昨日来た道を今日は戻らねばならない。

気分は上がらないがゆっくりもしてられない。荷物をまとめて出発だ。

風景は一変していた。風は冷たく強く、木々には氷が張り付いている。

昨日は秋だったが、今日は冬である。

凍った木道は最悪だ。油断してると、なんでもないところでも大きく滑ってしまう。昨日は快適に歩いた木道を、今日はそろそろと進む。どうやら登りよりも時間のかかる下山になりそうだ。

ゆっくりゆっくり歩みを進めていると突然、霧が晴れて日が差し、風景が輝き始めた。

黄金色の湿原は薄っすらと雪化粧して白く光っている。陽ざしは暖かく、風は優しく吹いていく。思わず息を飲む瞬間だった。美しさに心が震えた。こんな時間があるから、また山に帰ってきてしまうのだろう。

湿原の木道はまだしばらく続く。その後は笹薮漕ぎだ。さあ、行こうか。この風景を記憶にとどめて。