この星の命の時間 – 御前山 / 高柄山 / 倉岳山 / 高畑山

緑が目にしみる。

明るい日の光に照らされて、新緑が輝いている。
キラキラ輝く光の粒が降りそそぐ。

なんとも、なんとも軽やか日だ。

上野原駅から出発し、御前山、高柄山と歩いてさらに先へ。

ただひたすらに道を行く。
出会う人もなく、静かな時間が過ぎていく。

自然に包まれて穏やかに歩く。
この星に生まれ、この星で生きていることを実感する時間。

こんな天気のいい日には、もっと展望のいいところに行けばよかったなと、ちょっぴり後悔する気持ちがいままではあった。それがなぜだか急になくなった。

それはきっと、この星の命の時間を感じることができたから。

展望を得るために山へ行くのではない。ピークを踏みにいくのでもない。美味しいものを食べに行くのでも、にぎやかな時を過ごすのでもない。山に登るのは、この星の命の時間を刻むため。

もちろん自然は穏やかなだけではない。

時に自然は猛威をふるい、人間なんていとも簡単に死んでしまう。天候の急変で吹雪になったり、危険な岩場や崩壊地の通過だってある。そんなとき、体力と精神力の全てを出し切って生き延びる自分を経験すること。それらも等しくこの星の命の時間である。

そう思えたとき、どんな状況でも楽しめる自分がいることに気づいた。雨に打たれて歩いていても、死と隣り合わせの岩場でも、穏やかな日でも、鬱蒼とした森の中でも。

なんだろう、なんだか心に大きな余裕ができた気がする。心境の変化ってのは、ある日突然やってくる。なにかのきっかけによって。

高柄山から先も静かな山道だったが、倉岳山に近づくと、何人かの登山者に出会うようになった。

もうひとがんばりして高畑山まで行こう。まだもう少し、この星の命の時間を感じていたい。

山の空気を大きくいっぱい吸い込んで、再び歩き始めた。