雨と肉と低山 – 九鬼山 / 御前山

「ドラえもんと同じだから」

何度もそう聞かされてたので覚えてましたとも、M子先生の誕生日を。

で、今年はドラえもん(とM子先生)の誕生日が土曜日だったので、いっしょに山へ行くことになってたのですが、あいにくその日はわたくしが仕事になってしまいました。

が、「次の日でもよい」というありがたいお言葉により、ドラえもん(とM子先生)の誕生日翌日に、とりあえずどこか山に登って御生誕祭を祝うこととなりました。

いちおう誕生日なので、行きたい山の希望を聞いてみます。

「高尾山でビアマウント、それから立川で誕生日プレゼントの買い物して…」

却下です。てか、それ山じゃないでしょう…。

「えー、だってビアマウント行ったことないし〜」

ダメです。却下です。そういうことじゃありません。高尾山は山ではなく寺です。それにM子先生に昼から飲ませたら危険すぎます。酔っ払ったM子先生とプレゼントの買い物なんて自殺行為です。

行き先は一任していただき、どうせ天気も良くなさそうだからそのへんの低山でということにして、適当に九鬼山から登ったことのない御前山へと決めました。歩いてみたいけど、中途半端に距離が短いので後回しになっていたルートです。はい、M子先生の誕生日は関係ありません。まあ、どこでもいいと言っていたので、どこでもいいのです。

M子先生は、人のあまり来ない低山を歩く機会はほとんどないようです。鬱蒼と木々の茂った薄暗い登山口を前にして「なんか気持ち悪い…」と柄にもなく尻込みしています。わたくしはこういうところを歩くほうが多いくらいなので、かまわず突っ込みます。

あまり整備された形跡のない、適度に荒れた登山道を歩いて九鬼山に到着しました。

天気は悪く、雨もしとしと降ってきたので、先を急ぎます。先はまだまだ長いです。

崩れ落ちたトラバース路を適当に歩いて通過するなんて、ひと気のない低山ではよくあります。ザレザレの急傾斜なんてのもよくあります。そんなところをM子先生は、いちいちヘンな声を出しながら通過していきます。まあ確かに、北アルプスの3000m級よりも、ある意味歩きにくいと言えなくもありません。

地味に登ったり地味に下ったりを繰り返して進みます。あいかわらず小雨が降っていて、全身がしだいに湿ってきました。

そうして、かなりうんざりしたころ、ようやく御前山に到着しました。

大月市の秀麗富岳12景は12景と言いつつ19の山頂が制定されています。これはおそらくどうしても12景と名付けたかったため、近くの山を強引にまとめてひとつとし、12のグループにわけたのだと思われます。

この御前山も秀麗富岳12景のひとつですが、それら19の山にも含まれていません。公式パンフレットにも公式サイトにも掲載されていませんが、秀麗富岳12景写真コンテストの募集要項には、19山と暫定登録の御前山から撮影した富士山の写真のみ応募可とあります。

暫定登録だなんて、そんなことどこにもアナウンスされてませんが。これはおそらく、12景を制定し、パンフレットなんかも作っちゃった後で、ここからも富士山がよく見えることが判明したのではないかと思われます。
もしかすると永遠の暫定登録かもしれませんが、本登録になったあかつきにも、当然ですが、九鬼山か高川山あたりとまとめてひとつとされることでしょう。

そんな爪弾き扱いされてる御前山ですが、山頂にはちゃっかり秀麗富岳12景の標識がありました。

この日は天気も悪く、富士山はもちろん見えません。

「富士山はどっち?」とM子先生

たぶんあっちじゃないですか?と適当に開けた方向を指差します。どうせ富士山見えませんから。

しとしと雨も止んでたので、お昼ごはんにしました。

誕生日のディナーが餃子だったというかわいそうなM子先生のために、いちおうそれなりのステーキを用意しました。付け合わせの温野菜に粉末ジャガイモで作ったポテトサラダを添えてできあがりです。

ナイフとフォークも用意して、いざ食べ始めようとすると、雨が強く降り出しました。なかなかのタイミングです。雨を避けるものもないので、濡れながらささっと食べて下山します。

「肉を食べたら元気が出てきた〜。肉ってすごい〜」

M子先生は俄然元気になってきました。どうやらここまで、雨の樹林帯での地味なアップダウンを繰り返してきて、けっこうヘコんでたようです。まあ、元気になったのならよかったよかった。

登山道の蜘蛛の巣を払おうとして手を振り回した勢いで、最後の最後に大コケしてぐしょ濡れの泥だらけになって下山しました。蜘蛛の巣対策でずっとM子先生に前を歩かせていたのですが、最後の最後に交代したのが失敗でした。

地味で悪路で雨降る中の誕生日登山となり、もしかしてこういうのはもうこりごりではないかと心配し、M子先生に本日の感想を聞いてみました。

「肉が美味しかった。肉ってすごい〜」

肉のおかげで、どうやらいろんなことが帳消しになっているようです。

ちょっといい肉にしておいてよかったよかった。