光る雪 心にしみる春の山 帰らぬ日々に想いをはせて – 乗鞍岳
眩しく輝く白い頂き。青空が心に染みる。
森林限界を越えると広がる雪原は開放的で気持ちいい。
来てよかったな。ここに来てよかった。
切なさや愛しさで胸がいっぱいになる。
どこを歩いても行けそうだけど、まずは肩の小屋から朝日岳経由で山頂を目指す。
一歩づつ一歩づつ、かみしめながら登る。
ゆるそうに見えるけど、登ってみるとけっこうな急傾斜だ。でも、それがいい。ひたすら一直線に登り坂を登る。いまはそんな気分なのだ。
急登を登り続けて四時間で稜線に出た。
よし、ちゃんと登れてる。なかなか悪くないペースでちゃんと登れてる。
稜線の雪はガチガチに凍りついていた。ピッケルが刺さらないほどガチガチだ。
いままで以上の急な登り。冷たく強い横殴りの風が吹き付けている。アイゼンが刺さってるのか刺さってないのかよくわからず、足に体重を乗せるのが怖くて、思わず手をついてしまう。
これくらいの怖さや難しさがあっていい。これを登りきって頂きに到達したい。そんな気分なのだ。
朝日岳の山頂から振り返ると、そこには堂々とした北アルプスの山並み。
いいな。ここに来てよかった。いまの気分にびったりの場所だ。
目の前には乗鞍岳へと続く稜線。ここから先はそんなに難しくはなさそう。
さて、行くか。あの頂を目指して。
一歩づつ一歩づつ、ゆっくりと登っていく。
3000mに近くなり、体が重く足が上がらない。
ゆっくりゆっくり登っていく。
そうしてたどり着いた山頂からは、正面に御嶽山、左手には中央アルプスに南アルプス。右手には白山。そして振り向けば北アルプス。
遠いからなかなか行けなかったけど、今年はあの稜線も歩こう。もらった時間は大切に使おう。
空は晴れて、周りの山々がぐるりと見渡せて、空気はキンと冷たく澄んで、3000mの白い頂に立つと、手を伸ばせば天にも届きそう。
キラキラ輝く光の粒が、優しいメロディーを奏でながら降り注ぐ。
ここに来てよかった。
心に軽やかな風が吹き抜けた。