ゴムそばとコロッケ – 栃木県 那須烏山

那須烏山という市がある。那須と付くのだから栃木県の市なのだが、那須と聞いて思い浮かぶ場所、那須塩原温泉や那須高原からはだいぶ遠い。

那須塩原市や那須町は栃木県北部で福島県と接しているが、那須烏山市は栃木県中央東部にある。宇都宮からずーっと東へ行ったあたりの茨城県との県境だ。周囲のほとんどは市ではなく町である。つまり、まあまあ辺鄙な田舎町だ。那須烏山をわざわざ訪れる人はいないだろう。用がなければ行かない町だが、用がある人もさほどいるとは思えない。移動の途中で通過することもまず無さそうだ。

そんな寂れた町、那須烏山にも地域で親しまれてきた食文化がある。

まずは焼きそばだ。

那須烏山の焼きそばに使われる麺は、保存性を高めるために生麺を二度蒸ししている。そのため色は茶色くなり、水分が少ないのでぼそぼそしている。その見た目や食感からゴムそばとも呼ばれているらしい。確かに見た目は輪ゴムのようだ。

肉入りや卵入りもあるが、食べるならイカ入りだろう。茨城や栃木で見かける真っ赤な煮イカが使われている。

イカを塩茹でして保存性を高める際に、見た目もよくしようと食紅で赤く色付けたのが煮イカだ。毒々しい赤色で、はたしてこれが良い見た目なのか疑問だが、煮イカは赤くないと売れないらしい。

二度蒸し麺も煮イカも、冷蔵設備の発達した現代では必要性が無くなっている。それでもなお使われ続けているのは歴史であり伝統であり、そこには懐古趣味ではないこだわりと愛着があるのだろう。

以前は何軒もの焼きそば店があったというが、今でも残るのは二軒のみだ。今回はそのうちの『かまぎん』を訪れたが、もう一軒は見つけることができなかった。もしかしたらすでに廃業してしまったのかもしれない。

那須烏山に固有のもうひとつの食べ物はコロッケだ。

那須烏山のコロッケはカレー味である。カレーコロッケなら他の地域にもあるが、ここではコロッケといえばカレー味なのだ。すべてのコロッケがカレーコロッケなので、表記も単に「コロッケ」でしかない。

かつて洋食が日本に入り、徐々に一般にも広まり始めた頃、コロッケやメンチカツにはカレー粉が加えられていたという。カレー味が洋食的な風味の代表だったのだ。那須烏山のコロッケは、そんな時代に伝わったものが、そのまま現代まで生きながらえているのだろうか。

カレーコロッケといってもカレーの味はほとんどしない。断面はうっすら黄色く色づているだけだ。食べてみると微かにカレーの香りがするが、ソースをたっぷりかければカレー風味は消えてしまうだろう。控えめでやり過ぎていないのも明治の伝播を思わせる。

このコロッケは市内の『石原食肉店』で購入した。以前は何軒もの精肉店があり、同様にカレー味のコロッケを販売していたというが、今でも営業を続けているのは石原精肉店だけである。

人口減少の激しい那須烏山市にあって、石原精肉店は大いに繁盛していた。ひっきりなしに客が訪れる。コロッケ以外にも肉料理や焼き鳥、ポテトサラダなど、多種多様の惣菜を販売している。

焼きそばもコロッケも、販売している店が一軒づつしか残っていない。まさに絶滅危惧食文化だ。かといって、この先こんな地味な食べ物が御当地グルメとして盛り上がる未来も想像し難い。

石原精肉店はまだまだ大丈夫だと思うが、かまぎんはいつ閉店しても不思議ではない。このまま絶滅してしまうのは避けられないのだろうか。少しでも長く続いてほしいと願うとともに、いまのうちにできる限り体験しておきたい。

2025年11月