豚タンとバラ焼き – 十和田

十和田の街も、昨今の地方小都市の例に漏れず寂れていた。活気のない街をぶらぶら歩き、一軒の焼肉屋に入った。夕方の早い時間で、数少ない店の中でも開いてる店はさらになく、17時まで散歩して時間を潰そうとしていたところで通し営業の焼肉屋を見つけたのだ。

決して狭くはない店内は、中途半端な時間にもかかわらずほぼ満員だった。ただひとつ空いていた座敷のテーブル席に通される。

まずは豚タンからだ。

十和田のローカルフードといえばバラ焼きが知られているが、豚タンもそれと並ぶ十和田に根付いた人気料理だ。バラ焼きをB-1グランプリの十和田代表に選んだ際にも、最後まで豚タンと迷ったという。

豚タンを注文すると、ホールの年配のお姉さまは厨房へ「タン塩〜」と通していた。十和田ではタン塩といえば当たり前のように豚のタン塩らしい。メニューをよく見ると、豚タンはあれど牛タンはない。

豚のタンは何度も食べたことあるが、それほど好きな食べ物ではない。美味しくないわけではないが、どうしてもジェネリック牛タンと感じてしまうからだ。だが、十和田の豚タンを食べて、その認識を改めた。なんかもうめちゃくちゃに美味しいのだ。

厚切りに切られた豚タンはやわらかく、かつ適度な噛みごたえもある。確かに豚のタンの味ではあるが、それが牛タンと比べて劣っているとは感じない。よくよく考えれば牛タンだってピンからキリまである。いままで食べてきた豚タンはキリの方だったようだ。十和田の豚タンは間違いなくピンだ。

もちろんバラ焼きもいく。

タレをからめた牛バラ肉と大胆に切った玉ねぎを混ぜ合わせた皿を年配のお姉さまが運んできた。お姉さまは皿をテーブルに置くことなく、皿の中身を熱した鉄板の上にじゃーっと広げた。少しづつちまちま焼くようなちんけな焼き方は許されない。焦げるから常に混ぜてと焼き方の指南をして、年配のお姉さまは去っていった。

言いつけを守って菜箸でかき混ぜる。だがイカキムチをつまみにビールを飲むときには手が止まる。冷たいビールで喉を潤し、はぁーっと深い息を吐く。モタモタしてると、焦げるからかき混ぜて!とすかさずお姉さまの指導が入る。最後は見てられなくなったのか、お姉さまは私から菜箸を取り上げて自らバラ焼きをかき混ぜ、もう焼けたから食べてと言い残し、鉄板の火を消して去っていった。

バラ焼きは想像通りの甘辛い味付けだったが、予想とは違っていた。全くくどくない、というかかなりあっさりしている。甘味が控えめなのだ。

かつての日本の食事は塩っぱかった。それが戦後になって砂糖が普及するとともに、甘い味付けが広まった。戦時中の甘味に飢えた反動から、かなり甘くなった料理もある。そんな中、いまでも東北では甘さ控えめ、あるいは砂糖もみりんも加えない甘味無しの料理が日常に存在する。

甘味に飢えた時代には、バラ焼きのほのかな甘辛さはご馳走だったことだろう。それでも他地域のように他の料理がなんでもかんでも甘くなることもなく、あるいはバラ焼き自体の甘味が過剰になっていくこともなく、上品な甘辛味を現代に保っている。

酒もいいが、白ごはんが欲しくなった。

その後もあれやこれやと飲み食いし、良い気分で店を出ると、外はすっかり夜になっていた。

2025年8月