高島とんちゃん
「とんちゃん」という名の食べ物を知ってるだろうか? 東京ではあまり聞かない言葉だが、我が出身地の中京地区ではとても一般的なものである。
「とんちゃん」というのは、タレをからめた豚の小腸の焼肉のことで、東京の焼肉屋だと「ホルモン」などという雑な名前が付けられてるアレとだいたい同じものだ。「ホルモン焼き」や「こてっちゃん」という名でスーパーで販売されているものともだいたい同じである。
「とんちゃん」は豚の小腸に限られているわけでもなく、地域によっては牛の小腸だったり、大腸だったり、その他の内臓肉を含んだりもするようだが、豚や牛の内臓肉という点は共通している。しかし湖西地方だけは少々様子が違う。ここでは「とんちゃん」と言えば、味噌ダレをからめた鶏肉なのだ。主に家庭で食べるものらしく、肉屋で鶏肉を購入すると追加料金なしでとんちゃんにしてくれる。
高島駅前の鶏肉屋で鶏肉を買ってとんちゃんにしてもらった。店の人によると、とんちゃんにするのは普通は若鳥だそうだが、親鳥好きなので親鳥をとんちゃんにしてもらう。後から知ったのだが、元々とんちゃんは固い親鳥を食べるための工夫として生まれたというので、ルーツに近づく良い選択だった。いまから思えば両方買っておけばよかったのだが。
親鳥がグラム130円、若鳥が140円。タレをからめてから計量するので厳密にはタレ代も入っているのだが誤差の範囲だろう。味噌ダレの味噌は八丁味噌だった。このあたりもまだ中京八丁味噌文化圏なのだろうか。
驚くことに、味噌ダレは非常にあっさりしていた。我が出身県なら、やり過ぎなくらいに甘味を加えて過剰な味にしてしまうところだが、高島とんちゃんは甘味を最小限に抑えて八丁味噌の酸味を活かしている。上品で繊細で、まるで懐石料理の一品のような味わいだ。おそらく初期型とんちゃんからあまり変化していないのではないか。一周回って新鮮である。
親鳥は固く噛みごたえがあって、確かにこれは若鳥の方が合うなと思ったが、これこそが高島とんちゃんの原初の姿なのだから、これでいいのだ。
2025年2月