真夏の低山縦走 – 浅間山 / 唐澤山 / 諏訪岳

暑い。夜明け前から暑い。

佐野駅の北口に車を停めて、山に向かって歩いていく。こんな朝早くにもかかわらず散歩してる人が何人もいる。日中の暑さを避けてるのかもしれないが、早朝からすでに暑い。

1時間近く市街地を歩いて浅間山の登山口に着いた。もちろんあの浅間山ではない。標高193mの低山だ。

まあまあ急な登り坂を登っていく。日が昇って、気温がさらに上がってきた。暑い。

20分も登ると山頂だった。たったの20分しか登ってないのに、暑さのせいですでにバテ気味だ。

驚いたことに、山頂には登山者がいた。ソロの男性だ。山頂の先端の見晴らしの良い場所で景色を見下ろしていた。軽装…というか普段着みたいな格好なので近所の人だろう。そもそも遠方からわざわざ登りにくるような山ではない。私が到着すると、男性は見晴らしの良い場所を譲ってくれたのだろう、東屋の方へ歩いて行った。

今日はここから唐澤山を越えて諏訪岳まで縦走する。唐澤山の標高は240m、最高地点の諏訪岳でも322mだ。高尾山より低い。とはいえ一応は縦走である。暑さの厳しい夏に歩く山ではない気もする。距離もそこそこある。

岡崎山、182m

飯守山、221m

権現堂、226m

聞いたこともない山々を通過していく。

それにしても暑い。気温はぐんぐん上がっていく。喉が渇いてたまらない。冷たいジュースを一気飲みしたい欲望が止まらない。

唐澤山は元は山城で、関東七名城のひとつだという。城はすでに無く、本丸跡に唐澤山神社が建立されている。そこそこ観光地なのか、地図にはレストハウスが記載されているので、そこで冷たい飲み物が手に入らないかと淡い期待を抱いて歩く。

レストハウスは予想通り寂れていた。営業してないのか開店前なのかはわからないが、いずれにせよ閉まっている。だが、レストハウスの前には自販機があった。こういう場合、電気が来てなかったり、すべて売り切れてたりで落胆することも多いのだが、意外にもちゃんと稼働していた。地獄に仏とはこのことだ。

わくわくしながらペットボトルを二本買い、一本はその場で一気飲みして、もう一本は地べたに座ってゆっくり飲んだ。生き返った。

唐澤神社には車で上がって来れるので、レストハウス前の大きな駐車場には数台の乗用車やバイクが停まっていた。観光客がちらほらいる。まったく知らなかったけど、まあまあ知られた観光地なのだろうか。

唐澤山は縦走路のまだ半分地点。ここから後半戦だ。

暑い暑い。樹林帯で風も通らない。登ったり下ったりをくり返して進んでいく。

ときおり登山者とすれ違う。おじさん、おばさん、お爺さん、みんな地元民だろう。この暑いのによくやるよと思うが、向こうもそう思っているに違いない。

栃木ではマイナー低山でも地元の人に出会う確率が有意に高い。群馬や山梨だと一日誰にも会わないこともよくあるのに、栃木だとだいたい歩いてる人がいる。おそらくほとんどは近隣住民だろう。山歩きが習慣化している人が多いようだ。

京路戸峠まで来たら、あとは最後の急坂を登り切れば諏訪岳に着く。登頂した時には汗びっしょりになっていた。

ふう。やっと着いたか。まあまあの達成感だ。これが涼しい季節なら、たいしたことなかったなで終わってただろうから、低山縦走は真夏にやるのが正解かもしれない。

さて、そろそろ帰るか。

木の板の簡素なベンチから立ち上がると、座っていた部分だけが汗で濡れて色が変わっていた。

京路戸峠までもどり、麓へ降りた。

市街地を歩いて駅へ向かう。市街地というか郊外というか、閑散として空が広い。灼熱の太陽が照りつけているが、日影がないので逃げ場がない。直射日光を浴びながら歩き続けるしかない。

30分ほど歩くと多田駅という駅に着いた。とてもとても簡素な駅だ。ぱっと見は、駅というより公衆便所である。普通に生活していたら一生縁のない駅だろう。佐野まで歩いてもどるには暑すぎるので、ここで電車に乗ることにした。ちょうど15分後に上りの電車がやってくるところだった。

車窓からは今日歩いた山脈が見えた。標高たったの300mとはいえ、なかなか立派な稜線ではないか。

うんうん、これはアルプスにも匹敵するなと感心しながら眺めていた。

2025年7月