山形四天王を訪ねて – 山形ラーメン探訪記 1
都道府県別のラーメン消費量で不動の一位を続ける山形県。県民のラーメン消費量は全国平均の二倍だ。実際に旅行しても、その傾向は感じられる。昼食をとろうとしても定食屋が見当たらず、ラーメン屋ばかりが目に入る。山形は人口あたりのラーメン店の数も全国一なのだ。山形県民にとっては、外食といえばラーメンが真っ先に思い浮かぶのだろう。
県内には地域ごとに特徴のあるラーメンがあり、昔ながらの店がいまでも強く支持されて地元民と観光客で混み合っている。そんな山形県の中でも山形市は「ラーメンの聖地」を自称していて、市役所隣接の立体駐車場には、「ラーメンの聖地」と大きく掲げられていた。
聖地であり県庁所在地でもあるので市内には多種多様のラーメン店があるが、食べるならやはり昔ながらの醤油ラーメン一択だろう。
数多のラーメン店がしのぎを削る山形市にあって、レジェンド店の四店が山形四天王として讃えられている。四天王はそれぞれ中心地から東西南北に5km程度も離れていて、東雄、西雄、南雄、北雄と並び称されている。
山形ラーメン入門として、まずはこの四天王から訪れてみることにした。
西雄 大沼食堂
予想はしてたけど、ほんとにこんなところにラーメン店があるのかと訝しむような郊外の住宅街だ。元々は周辺住民を相手にした店だったのだろう。
見た目はまるで普通の家のような建物だ。店内に入ると思ったよりも新しく、リニューアルして間がないようだった。店主も若いので代替わりしたのだろうか。
みそラーメンもメニューにあったが、醤油味の中華そばを注文した。
鶏ガラベースのスープは生姜が効いていて、醤油が強すぎることもなく味わい深い。
食堂とはいうものの、メニューはラーメンのみだった。
北雄 いさご食堂
ここも店というよりは家だ。家の一階が店になっている。
いさご食堂は、その名の通り食堂だった。ラーメンは醤油以外に味噌、塩、とんこつがあり、ワンタンメンや五目そばもある。うどんもある。カレーやカツ丼、チャーハンといったご飯物もある。野菜炒め定食もある。
メニューの守備範囲は広いものの、やはりラーメン類がもっとも充実していた。当然ながら醤油味の中華そばを選択する。
鶏ガラベースの透明なスープで、あっさりしているがあっさりし過ぎることもなく、コクも旨みもある。脂も浮いている。大沼食堂もそうだったが、昔のままというよりも現代的なラーメンに多少(あくまでも多少)寄せてきてる気がした。それとも昔からこの味だったのだろうか。
このブログを書くために確認したところ、最近になって隣に新たな店舗を建てて移転したそうだ。新しい店舗も住居兼用らしい。メニューは少し絞ったというが、その方がいいだろうと思う。
東雄 八幡屋
八幡屋へ向かう道は狭く、山へ向かって緩やかに登っていく。周囲は緑が豊かだ。まもなく市街地が終わり山へ入る手前に八幡屋はあった。ラーメン屋があるロケーションではない。
年季の入った店はレトロだ。どれくらいレトロかというと、歪んでしまって玄関の引き戸が開けづらいほどにレトロだ。私は玄関を開けられず、店のお婆さんに開けてもらった。
老夫婦二人で営んでいる小じんまりとした店である。小じんまりと言うか店内は驚くほどに狭く、小さなテーブルが三つあるだけ。メニューは中華そばの並と大盛りとぬるめだけ。ぬるめがあるのはレトロだ。夏場は冷し中華や冷たい中華そば(この二つは別物)もやっているらしい。
八幡屋の中華そばは牛骨スープだ。山形県の内陸部は東日本には珍しく肉と言えば牛肉の地域で、芋煮も牛肉で作る。牛骨出汁のラーメンを提供する店もちらほらある。他地域の牛骨ラーメンには、安く手に入る牛骨で出汁を取り、チャーシューは豚肉というスタイルがあるが、牛肉大好き山形県では当然のようにチャーシューも牛肉だ。焼豚が牛肉というのは言葉的に矛盾している気がするが、他に書きようがないのでこのままにしておく。
牛骨の風味がしっかり出たスープと食べごたえある牛肉チャーシューのラーメンだった。
南雄 吉野屋食堂
西雄、北雄、東雄とここまで三軒、四天王というからにはもう一軒ある。それが南雄「吉野屋食堂」だった。過去形なのは、数年前に閉店してしまったからだ。どんな店舗だったのかと跡地を見に行ったが、すでにどこが店だったかわからなくなっていた。
四天王と讃えられる店でも閉店してしまう。現代とはそういう時代なのだ。決して店が流行ってなかったわけではないだろう。大沼食堂といさご食堂はまだまだ大丈夫だと思うが、八幡屋は後継者もいなさそうだしいつ店じまいしてもおかしくはない。
今後10年ほどで多くの「古き良きもの」が失われていくのは間違いない。時代の流れに抗うことは不可能だ。ぼくらにできることは、ひとつでも多くが継承されることを祈りつつ、今あるものを今のうちに味わうだけである。
孝行をしたい時に親はなく、食べに行きたい時には店がない。そんな事態にならないように。