久留米、昭和が色濃く残る街。路地裏のギョウザとなんでもありのやきとり
西鉄久留米駅を出ると、目の前のビルにはアイスクリームの大看板。「白くま」は聞いたことあるが、「あいすまんじゅう」は初耳だ。丸永製菓というのは地元の企業らしい。ローカルだ、あまりにもローカルだ。駅前一等地の看板からしてローカルだ。
駅前のホテルも、その他のビルも、適度に年季が入って古ぼけている。幼い頃に過ごした記憶の街並みにもどこか似ていて、なんだかほっこりなつかしい。福岡は現代的な大都市に生まれ変わったけど、久留米はずっと昭和のまま。高度成長期に発展して、そこで時が止まったかのようだ。
駅前から続く商店街とその周辺が久留米の繁華街、いわゆるシャッター街ではなく営業している店もそれなりにある。
アパレルショップや居酒屋といった繁華街としての機能と、八百屋や肉屋のような日常使いの店が混在している。閉館した映画館が八百屋として生まれ変わっていた。
日曜だからか年末だからか閉まってる店も多いのに、なぜだか肉屋は何軒も営業していた。
久留米に来たのは初めてだ。初めての街を歩くのはいつだって楽しい。それがなつかしさこみ上げる昭和の街並みならなおさらだ。歩いて見て回るのにちょうど良いコンパクトさなので散歩がはかどる。
そういえば東京には東久留米という市がある。久留米となにか関係あるのかなと調べたら、市制移行時にはすでに福岡県久留米市が存在していたので、混同を避けるために東京都東久留米市としたそうだ。
ぶらぶら歩きながら、夜になったらどこで飲もうかなと良さげな店を探していた。候補は何軒か見つけたものの、なにせ年末の日曜日だ。営業するかどうかはわからない。
商店街の路地裏をのぞくと、なにやら存在感のある餃子屋があった。店頭には年末年始の営業予定が書かれた張り紙があり、今夜は営業するとわかった。並び方を記した張り紙もあったので、並びができるほどの人気店なのだろうか。
ぶらぶら歩き回ってから開店20分前に再び行ってみると、すでに6人並んでいたのでいそいでその後についた。店内はカウンター12席だったので一巡目に入店できた。
飲み物以外のメニューは焼き餃子と水餃子、あとはキムチとごはんだけという潔さ。まずはビールと焼き餃子を注文した。
餃子は小型の鉄鍋で一人前づつ焼かれて、目の前の鍋敷きに置かれる。なんだかヘンな形の餃子だ。それに妙に白っぽい。
鉄鍋で焼かれ、蓋をして蒸された10個の餃子は、蒸気で蒸されてふにゃった上側をこちらに見せて並んでいる。裏返してみると底面には香ばしくパリッと揚げ焼きされた焦げ目が付いていた。ヘンな形なのはつぶれているからだ。餡が少なく平べったい。
なんじゃこりゃと思いながらひとつつまみ、餃子のタレをちょんちょんとつけて口に入れた。
!?!?!?!?
よくわからないのでもうひとつ食べる。
な、なんじゃこりゃー
ものすごくものすごく美味しくて、思わず松田優作になってしまいそうだった。なぜだかわからないけど、ものすごく美味しい。
皮なのか餡なのかバランスなのか焼き方なのかそれらすべてなのか、なぜ美味しいのかどこが美味しいのかいくら考えてもわからない。別添えの唐辛子を餃子のタレに加えると、美味しさがさらに増した。
ひとり用の鉄鍋で焼かれるので、餃子は一人前づつ出てくる。他の客が次々とお代わりしているのを見て、私も焼餃子を追加した。水餃子も気になるけれど、いまはこの謎に美味しい焼き餃子をもうひと皿食べたい。
あとから知ったのだが、ここはかなり有名な餃子屋で、久留米出身の藤井フミヤのお気に入りでもある。店内にフミヤのサイン色紙が飾ってあるらしいけど、餃子に夢中で気づかなかった。
おなかいっぱいになるまで餃子をお代わりしたかったが、久留米の夜が餃子だけで終わってしまうので、強い意志で二皿でやめた。
二件目はやきとりにした。やきとり密度全国一の久留米らしく、街のあちこちにやきとり屋がある。
久留米でも福岡と同様に、やきとりと言いつつ鳥以外も焼く。ここでも豚バラ人気は高い。豚バラとともに串に刺して焼かれるのは玉ねぎだ。
牛サガリや豚足に鶏皮といった現地感あふれるメニューの中には、名前を見てもなんだかわからないものもある。
ダルムというのは豚の小腸のことで、医学生がドイツ語で呼んだのが定着したのだという。ダルムは久留米やきとりを象徴するメニューのひとつだろう。
野菜類やその他の具材を豚バラ肉で巻いて串に刺した巻物串は、いまや全国のやきとり屋にあるけれど、発祥の地は久留米だ。オクラ巻、エノキ巻、チーズ巻を食べてみた。こじんまりとした巻物串はキリッと塩味が効いていた。
久留米では串に刺して焼けばなんでもやきとりだ。野菜やソーセージだけでなく魚介類のやきとりもある。えびに串して焼いたらえびのやきとり、ししゃもに串刺して焼いたらししゃものやきとりの出来上がり。なんて自由なんだろう。
満腹でいい気分になった。
やきとりの後は骨付き豚カルビの店に行くつもりだった。骨付きカルビも久留米名物のようで、幟やポスターでアピールしている店を何軒かチェックしておいた。でももうおなかいっぱいだ。無理すれば食べられるが、旅先での食事は「よくばらない」を基本方針にしてるのでやめておく。それに肉はもういいや。久留米は肉食の街だな。肉料理が多い。〆に久留米ラーメンというのも頭に浮かんだけど、やっぱりやめておく。
腹ごなしに散歩してたら素敵な屋台を発見してしまった。〆にチャンポンもいいなと吸い込まれそうになったが、食べたら後悔するのは確実なので、またいつか再び訪れる日のために取っておくことにした。
2024年12月