年越しナイトハイク 2015-2016 sect.3

蛭ヶ岳の山頂で山頂標識の写真を撮ったりしていたら、急に体が冷えてきた。

あわててザックからフリースを取り出して着ようとする。しかし脱いだ時に裏返しになったまま突っ込んでたので、着るまでに手間取ってしまった。冷たい風も吹いている。
さらにソフトシェルも着てひと段落した時には、体がすっかり冷えて震えが止まらない。手袋を外していた右手は痺れて痛くなってきた。

寒くなってから着るんじゃなくて、寒くなる前に着とかなきゃ。山頂の手前では早く着きたくてそのまま登ってしまったが、本来なら吹きさらしの山頂に出る前に着ておくべきだった。

じっとしてても震えるだけなので、再び歩き始める。

ここからは歩いたことある主脈縦走路だ。木々もまばらで、月の光が周囲をほのかに照らしてくれる。ナイトハイクには楽な場所だ。

ナルゲンボトルの水をひと口飲むと、薄っすらと氷が張っていた。

水も凍る気温なのか。そりゃ寒いはずだ。そんな気温でTシャツ一枚でいたんだからな。

不動ノ峰を超えたら海が見えた。

輝く街の灯の向こうに横たわる海は、光のない黒くて深い闇の海。しかし、その海岸線ははっきりと見て取ることができる。夜景の手前には、これも漆黒の丹沢の稜線。

きれいだな。実にきれいだ。きらめく夜景と夜の海。
丹沢から見下ろす夜の景色が、こんなにもきれいだったなんて。

ヘッドライトの明かりを消すと、空には満天の星が輝いていた。

ひと口水を飲んだ。冷たい水が喉を潤す。
先ほどから喉が渇いて渇いてしかたないのだ。

夏場は多量の汗をかくので水の消費量も多いが、冬場はさほどでもない。
冬場の日帰り二回分の水を持ってきており、さらにコンビニでも500mlのペットボトルを一本補給している。これでじゅうぶんだと思っていた。
前半はさほど喉も乾かなかったのだが、後半に入ってやたらと喉が渇く。夜になれば気温も下がるし、水の消費量は減るだろうと考えていたが、なぜだか逆のようである。

よくよく考えてみると、確かに冬場の山行中はあまり水分を取らないが、下山してからはたいていなにか飲んでいる。それで山行中に不足した水分を補っていたのだろうか。そうするといまは、一日の山行で水分量が不足した状態のまま歩き続けていることになる。だからか…やたらと喉が渇いてしかたない。氷点下の気温なのに、氷水がやけに美味しい。

こりゃ、水がもたないな。あと残り200ml程度しかない。

一気に飲んでしまいたい誘惑に駆られるが、これで持たせなければならない。さすがに夜中に山小屋で購入するわけにもいかない。次に補給できるのは….ヤビツ峠に自販機があっただろうか…。

ヤビツ峠までまだかなりある。そこまで、手持ちの水を大切に大切に飲まなければならない。

丹沢山で二度目の大休止を取った。

西野々のコンビニで満腹になるほど食べたので、その後の登りは胃がもたれて気持ち悪かったのだが、そろそろお腹もすいてきた。

夜は、蕎麦を茹でて食べるつもりだった。エビの天ぷらも持ってきた。大晦日だからね、年越し蕎麦を食べなきゃ。
でも蕎麦を茹でる水がない。蕎麦は蕎麦湯の取れる生麺を持ってきている。当初の予定では水に余裕があるはずだった。5倍濃縮の出汁を薄める水もない。
どうしようか。非常食を食べてしのいでおこうかとも考えたが、やはりここは蕎麦だよな。大晦日だし。天ぷらもあるし。

しかたないので、濃縮出汁を沸騰させ、それで蕎麦を茹でることにした。

蕎麦が茹るにつれて、出汁はどろどろと粘り気が出て、団子のようになってきた。

ひと口食べてみる。味が濃い。濃すぎる。甘いししょっぱいし。おまけにドロドロしてる。かなり食べづらい。ひさしぶりに食べられないくらい不味いものを作ってしまった。これが2015年の最後の食事か。

そうとうに食べづらく、最後まで食べ切れず残してしまった。

苦しみながら蕎麦を食べていると、山荘の電気が突然消えた。大晦日でも通常通りに消灯するのかな?

また、ひと口だけ水を飲んでから出発する。濃縮出汁の蕎麦のせいで、よけいに喉が渇きそうだ。

蛭ヶ岳までは快調なペースだったが、そこから先は急にペースダウンした。足が重く、なかなか進まない。15時間を過ぎて、そろそろ限界を超えてきたようだ。だんだん眠くもなってもきた。もはやCT通りですら歩けない。

蛭ヶ岳から塔ノ岳まで、歩行時間3時間+休憩時間40分の3時間40分かかってようやく到着。

時刻は23時10分。2016年まであと50分。