玉山支所前食堂でホルモン鍋を食べる – 岩手県 玉山
平野から山間部に入り、道路はゆるやかにうねりながら標高を上げていく。まるで登山口へ向かうかのような道だ。こんな山中にほんとに街があるのだろうかと不安になったころ、市街地が忽然と現れた。旧玉山村の中心街だ。
ここに、山の中の小さな街には不釣り合いなほど客を集める食堂がある。それが玉山支所前食堂だ。玉山村が盛岡市に編入され、玉山支所が移転した現在でも、店名は変わらず以前のままで営業を続けている。

玉山支所前食堂の名物は、なんといってもホルモン鍋。甘辛くてニンニクの効いた漬けダレ、丁寧に下処理されたホルモン、そしてたっぷりのキャベツと豆腐。これが今時たったの700円だ。大盛りご飯を付けても千円でお釣りがくる。
味も見た目も、秋田県鹿角のホルモン鍋とよく似ている。玉山と鹿角は今でこそ岩手と秋田に分かれているが、かつてはどちらも南部藩の領地であった。食文化的にも共通するものがあるのだろう。

鍋を火にかけてじっと待つ。山盛りのキャベツも、加熱されて次第にかさが減ってくる。キャベツから出た水分でタレが薄まって、汁はほどよくスープ状になっていく。キャベツがしんなりしたら完成だ。
強烈な甘味とニンニクの旨みが口いっぱいに広がった後に、遅れて辛味がやってくる。これは酒よりメシだ。強力に白米を進める味付けだ。一人前の鍋で丼三杯はいけてしまう。

現代的にブラッシュアップするなら旨味を加えて味を丸くするところだが、それをしていないのも良い。古臭い味だと思うかもしれないが、これこそがかつてのご馳走の味なのだ。旨味が過剰にならずシンプルで潔い味である。山の中の小さな街で競争圧力にさらされてないため、昔の味がそのまま残っている。尊いではないか。
休日になると長蛇の列ができるが、並んでいるのは他所から来た人ばかりである。地元民はもっぱら持ち帰りだ。この日も開店前から持ち帰り客が次々とやってきて、営業中も途切れることはなかった。店で食べても卓上で自ら煮るのだから、自宅で食べても同じである。自宅ならいくらでもご飯をお代わりすることもできる。

最後は鍋の汁をご飯にかけて、一気呵成に平らげた。お代わりしたいところだが、食べ過ぎになるので強い意志で踏みとどまった。
2026年9月





