灼熱 Long Way – 薬師岳 / 夕日岳

登り始めてすぐに後悔した。しまった、こんなルートにするんじゃなかった。

今回の目的地は夕日岳だ。中禅寺湖と古峰ヶ原の間にある山で、栃木百名山のひとつでもある。

夕日岳には何年か前に登ったことがある。その時は南側の古峰ヶ原から登った。ほんとは薬師岳まで行きたかったのだが、そうするとさらに3時間余分にかかるのと、天気が悪かったのとでやめてしまった。

今回は北側から薬師岳に登り、夕日岳まで歩く予定だ。薬師岳のすぐ北の細尾峠には車で行けるのだが、細尾峠からだと距離が短いので、どうせならと中禅寺湖からスタートしたのだった。

しかし、中禅寺湖から細尾峠まではひと山越えなくてはならない。山というか、茶ノ木平を越えるのだけど、なんと今回の山行で最も標高の高いのが茶ノ木平なのだ。目的地の薬師岳や夕日岳よりも高い。そして、茶ノ木平から大きく下った細尾峠は、出発地点の中禅寺湖畔よりも標高が低いのだ。

行きはいいとしても、ピストンだから疲れ切った帰り道にここを越えるのはキツそうだなと後悔したのだった。

朝から暑い。細尾峠までですでに消耗している。そしてここからようやく目的の山に向かって登り始めることになる。

暑さと寝不足でへたりこんでいると、一台の車が細尾峠にやってきた。車から降りたソロの男性はそそくさと支度を整えると、登山口でへばって座り込んでいる私とは目を合わせないようにして、薬師岳へ向かってさっさと登っていった。

やれやれ、しかたないから行くか。

細尾峠からは1時間もかからずに薬師岳に着いた。続けて夕日岳へ向かう。

薬師岳から夕日岳まで、いったん下ってからは登りが続く。一方的に登りではなく、細かいアップダウンが何度も何度もくり返される。足に堪える。暑さも厳しい。

ていうか、これ6月の気温じゃないぞ。ものすごく暑い。汗でびっしょりだ。手持ちの水も少なくなってきた。途中で補給できそうにないから、下山まで保たせなければならない。あと何口飲めるだろうか。

三ツ目で前回ルートと合流し、夕日岳への最後の登りだ。前回はすぐ近くに感じたこの距離が、記憶よりも遠くていつまでも着かないような気になる。

夕日岳からは、日光連山がすぐ目の前に連なっていた。こんな景色だったんだ。前回はほんと真っ白で何も見えず、さみしい山だと感じたのだが、山っていうのは天気によってこんなにも印象が変わるのだな。

さて、帰り道。10kmくらいはあるから、けっこう時間はかかるだろう。

登りでアップダウンが何度もあったということは、下山でもアップダウンが何度もあるということだ。疲れてきて足がもつれる。

なにか食べなきゃいけないと思うが、なにも食べる気にならない。無理やりパンを齧っても、喉が渇きすぎて飲み込めない。水を飲んで口の中のパンを流し込む。いや、流し込めるほど豊富に水があるわけではないので、わずかな水を口に含んでパンを溶かして飲み込む。

暑さと疲労と喉の渇きでふらふらになりながら細尾峠まで下山した。

まだあと茶ノ木平を越えなければ中禅寺湖までもどれない。最後に大きな山越えが残っているのはつらい。なかなか歩き始める気になれず休んでいたが、歩かなければ帰れない。しかたなく立ち上がった。

しかし少しだけ登ってもう限界だった。とにかく眠い。暑さにやられると、やたらと眠くなる。寝不足もあるのかもしないが、雪山で疲れても眠くはならないので、やはり暑さのせいだと思う。暑さと疲労と脱水症状、これはもう熱中症だ。

たまらず草地にザックを放り投げて寝転んだ。とにかく寝よう。

どれくらい寝ていただろう。少しだけ頭がスッキリした。眠気がとれても、残りの距離が減るわけではない。まだまだ登りは続くし、その後は下らなければならない。

パンを齧り、水を少しだけ口に含んでパンを溶かして飲み込んだ。残りの水はあとひと口だ。

疲れていなければ、あるいは涼しい季節なら、なんということもない登りなのだろう。だが、いまは違う。とにかくキツい。体が重く、足が上がらない。

細尾峠から茶ノ木平まで、CT1時間50分のところを2時間半かかって到着した。

ふう、やっと着いた。あとは下るだけだ。最後の水を飲み、中禅寺湖へ向かって下った。

夕暮れの中禅寺湖には、まだいくらかの観光客が残っていた。

よれよれのふらふらで汗びっしょりで、なんだか場違いだなと思いつつ、まずはとにかく自販機を探して、ドクターペッパーを一気飲みした。

2025年6月