君は摩耶山を知っているか?
神戸の摩耶山ではない。山形と新潟の県境にある摩耶山だ。そんなところに摩耶山があるのか?と思っただろう。私も思った。だが、あるのだよ、全国に二つある摩耶山のうちのひとつが。
驚くことに、東北の摩耶山は日本300名山のひとつだ。100名山なら名前くらいは聞いたことあるが、200名山になると馴染みのある山域以外は怪しくなってくる。300名山ならなおさらだ、知らない山はけっこう多い。
マイナー300名山だけあって、登山口からわかりづらかった。Googleマップには登山口に通じる林道の記載がなく、適当に入った道は間違っていて、電波も入らないので調べることもできず、地形図を見ながら運転してたどり着いた。
そして、歩き始めたらいきなり靴を脱いでの徒渉だった。
尾根コースと沢コースに分かれていて、沢コースを選択したところ予想通り荒れていた。
トラバース路は落ちてるし、腐りかけのロープにぶら下がって岩場を降りたり、なかなかワイルドである。
沢を遡っていくと前方に二つの大きな滝が見えてきた。滝と滝のあいだにはハシゴがかかっている。
あれを登るのか?滝を高巻きせずにハシゴで直登とは、ずいぶんと強引な登山道ではないか。
滝の上に登ると沢から離れて歩きやすくなった。しかし長い。歩いても歩いても風景が変わらない。もっとあっさり到着すると思っていたのだが、思いのほか時間がかかる。もし尾根コースを選択していたら、退屈との戦いになっていただろう。
稜線に出ると視界が開けた。見慣れない東北の山並みは、どれがどの山なのかさっぱりわからない。
稜線に出たらすぐに山頂に着いた。
なかなか気持ちの良い山頂だ。他にはだれもいない。
もう一度あの沢を通過するのはイヤなので、下山は尾根コースを下ることにした。
下り始めるとすぐに樹林帯に入った。景色のいい区間はほんのわずかだ。そして再び長くて単調な道が続く。ところどころぬかるんでいて滑るので、あまり気を抜けない。
下山の途中で数人のグループと単独の女性にすれ違った。みんな沢ではなく尾根道で登ってくるのだな。
この日、山中で出会った登山者はそれだけだった。300名山だというのに静かな山だった。
2024年11月