GWの鳥海山

綺麗な山だな。

山頂から山麓へと両翼を雄大に伸ばした姿は、まるで大きく羽を広げた白鷺のように麗しい。

明日は、あそこへ登るのだ。

翌朝、夜明けとともに登り始めた。雪の斜面が朝日に照らされて紅色に染まる。

登山者も多少はいるが、圧倒的にスキーヤーが多い。確かにこの山容は、スキーで滑り下りるには最適だろう。

この美しい山は周辺の市町村からよく見える。他の山々よりもひときわ大きく、遮るものもないので、どこから見ても明瞭なランドマークだ。この地の人々は、この山を眺めて育つ。まさに故郷の山にふさわしい。

独立峰には、心の琴線に触れる何かがある。鳥海山も出羽富士と呼ばれ、他の代表的な独立峰と同様に御当地富士として親しまれている。しかし、富士山に似ているようで似ていない。鳥海山の美しさには、男性的で峻麗な富士に比して、たおやかな女性らしさがある。

独立峰は美しいが、登山は単純だ。とにかく上へ上へと登るばかりだ。

しばらく雪の斜面を登ると平坦になり、また雪の斜面を登っていくと、再び平坦部になる。これを何度かくり返して標高を上げていく。

すぐ近くに見えた山頂は、なかなか近づいてこない。壮大な自然の中で、遠近感がおかしくなっている。

標高が上がるにつれて、傾斜が急になってきた。転んだら途中で止まらない。ひとつ下の平坦部まで滑り落ちるしかない。なるべく穏やかなラインを見極めて、確実に一歩づつ登っていく。

山頂かと思っていたのは、外輪山の七高山というピークであった。スキーの人はここから滑り降りるようだ。

鳥海山の山頂は、カルデラ内の中央火口丘になる。

外輪山からカルデラ内に降り、再び雪の付いた斜面を登っていく。

山頂手前で回り込んで岩場を登ると、あったあった、写真でよく見る山名板だ。

新山とあるように、この山頂は江戸時代の噴火で新たにできた溶岩ドームなのだ。

穏やかな山容の鳥海山だが、日本に111ある活火山のひとつであり、気象庁が常時観測している50の火山のひとつでもある。活火山の中では噴火の可能性は低い方に分類されているが、ゼロではない。

新山まで来るスキーの人はほとんどいなくて、静かな山頂を満喫した。

七高山へ戻ると、山頂付近の狭い平坦部はスキーの人で埋まっていた。そして、次から次へと登ってきている。下山後に知ったのだが、GWの鳥海山は山スキーヤーの代表的な集合地であった。

登ってくる人たちとかち合わないよう、端の方に寄って下る。けっこうな急斜面なので、転けないように緊張する。

それにしても、ここをスキーで滑り降りたら気持ち良いだろうな。滑れる人がちょっとうらやましい。小学生レベルのスキー力なので、下の方ならなんとかなるが、この角度は無理だ。

下る人はほとんどいないのに、登ってくる人は途切れることがない。もう、お昼近いというのにだ。あの狭い七高山の山頂は、いったいどうなってしまうのだろう。

下山して、また驚いた。早く到着したので登山口の駐車場に停められたが、その後も次々と訪れるスキーヤーで駐車場は簡単にあふれて、路上駐車が延々と連なっていた。かなり下にいくつかある駐車スペースも車でいっぱいだった。

GWの鳥海山、恐るべし。

2023年5月