スノーモンスターに会いに行った日 – 蔵王山

樹氷の森を縫って、リフトは高度を上げていく。これだよ、これこれ。これが見たかったんだ。

冬の蔵王へ樹氷モンスターを見に行こう、そう思い立ってから何年も経ってしまった。冬の蔵王は天候が安定せず、快晴が約束された週末はなかなか巡ってこなかったからだ。蔵王まで行って失敗したくない、そんな気持ちが二の足を踏ませていた。

だが、それではいつまで経っても待ち続けるばかりになってしまう。なにごとも行ってみなければ始まらない。そこで、まあまあ良さげな予報の週末に、意を決して来たのだった。

リフトを降りると目の前は樹氷原だ。これだよ、これこれ。これが見たかったんだ。

早朝は青空ものぞいていたが、リフトを降りる頃には雲が多くなってしまった。でもまだ視界は十分。樹氷原を見渡せる。

準備をしたら出発だ。まずは刈田岳へ向かう。

樹氷原はだだっ広く、傾斜は緩やかで、どこを歩いても行けそうだ。実際にスノーシューで歩いてる人もいる。踏み抜くのがイヤだし、変な方向へ行ってしまわないよう、ルート通りと思われるところを登っていく。

登につれて雲は厚くなり、ガスが立ち込め、刈田岳に到着した時には、周囲はすっかり真っ白だった。

あ〜あ、残念。でもまあしょうがない。こういう日もある、それが山だ。

なにも見えないのに行く意味あるか?とも思ったが、とりあえずピークは踏んでおきたい派なので熊野岳へも向かう。

晴れていればたいしたことない距離も、天気が悪いと長く感じる。先が見えない中を歩いていくのはもどかしい。

ガスに包まれた熊野岳では、かろうじて山頂標識が見えるだけであった。

色が付いていれば識別できるので、少し離れていても他の登山者がいるのはわかるが、それ以外は真っ白である。空と地面の区別もつかない。あたかも宙に浮かんでいるかのような浮遊感だ。

風は穏やかなので恐怖感はないが、これで天気が荒れていたら恐ろしいだろう。前日に地元の人と話したとき、天候には十分気をつけるよう何度も脅されたが、ホワイトアウトの恐ろしさをよく知っているからだろう。

方向を定めて下山する。足元はよく見えず、踏み跡が判別しづらい。人が歩いたらしき痕跡を探して辿る。なにせだだっ広く開けた空間なので、コースを外れると、あらぬ方向へ進んでいってしまう恐れがある。

慎重にゆっくり確実に下っていく。緩やかな下りは緩やかな上りになり、やがて本格的な登りが始まった。

あれ?なんで登る?ずっと下りのはずだが…。

どうやら再び刈田岳へ登っているようだ。途中で分岐してリフト駅へ向かうトレースは見落としたらしい。歩いてきたコースを戻って分岐点を探すより、雪原を斜めに突っ切って下山路に合流することにした。

コースを外れると、とたんに雪が深くなる。ズボッ、ズボッと膝まで、あるいは腰までハマって雪と格闘する。

正しいコースへ復帰するまでわずかの距離のはずだが、気持ちが焦っていたせいか、ずいぶん長く感じた。

あとはトレースに沿って下るだけだ。標高を下げるとガスも薄れて見通しもきいてくる。

緩やかな雪原を順調に下っていたが、アイゼン無しではちょっと降りれない急斜面に差し掛かってしまった。

あ、あれ?こんなとこ登りで無かったぞ…。

GPSで確認すると、目指していたリフト駅よりだいぶ北へズレていた。スノーシューやスキーの人たちは雪原を自由に行き来してるので、その跡につられてしまったようだ。

GPSで位置確認さえすれば道迷い遭難することはない。そんな安心感があるせいで、ついつい雑に歩いてしまっていた。しかし、もしもGPSが無ければ、さらには吹雪であったなら、下山を急いで急斜面から滑落していたかもしれない。あるいは正しい方角がわからず雪原を彷徨っていたかもしれない。寒さと疲労で体力は奪われ、行動不能になっていたかもしれない。

まったく問題なくイージーモードで歩いていたが、もしかしたら遭難まではあと一歩だったのかもしれない。

景色はあまり堪能できなかったが、楽しい山歩きであった。通常は関東圏+山梨、長野、静岡が行動範囲だが、それを超えて旅するのは新鮮だ。知らない山域はわくわくする。いつもとは勝手が違うので、新たな経験値を積むこともできた。

どんな天気だって、山は楽しい。やっぱり来てよかったな。

2022年2月