雨よあの日の花を散らすな
あっというまの一年だった。ほんとうにあっというまに、気づいたら365日が過ぎ去っていた。振り返ってみれば、どこにいても、なにをしていても、なんだか気持ちの入らない日々だった。ずっと上すべりしているような毎日だった。
心にぽっかり空いた大きな穴は、しだいに小さくなってきたと感じてたけど、実際はそうではなく、ただいっときそこから気がそれていただけのよう。大きな穴は大きな穴のまま、一年経ってもふさがることも小さくなることもなく、これからもずっとそのままなのだろう。
そういえば、あの日から一年、楽しさや嬉しさや幸せを心の底から感じる瞬間もなかったかもしれない。
でもまあいい。そういうものだ。変えようとして変わるものでもない。
春の冷たい雨がしとしと降る中、もう見ることはないはずの桜並木をなんとなくまた見にきてしまった。もうこの街に特に用もないのだが、なんとなくまた来てしまった。
もういちど一日だけでもあの日にもどれるなら。
桜を見たからといってなにかが変わるわけでも、気持ちが晴れるわけでもない。そんなことはよくわかっている。ただ感傷的なだけだ。感傷的な気分に浸りたいだけだ。でもまあいい。なんとなく来たかったから来てみたのだ。
雨がしだいに強くなってきた。傘はないので、濡れて歩く。
雨のせいなのか、心のせいなのか、花祭りのにぎわいもなんだか寒々しい。
なんども通った病院や、いろいろと買い物したお店をただじっと見つめる。中に入ることはしなかった。これ以上、過去に触れるのはやめておこうという気がしていた。過去の扉を開いたときに、あふれ出すものが怖かった。
そう、もう終わったことなのだから。
満開の桜を散らす冷たい雨が降り続いている。
さて、帰るか。
もういちど最後に桜を見上げてから、Uターンして駅へと向かった。