東京の山村 – 峰

奥多摩湖沿いの道路とは峰谷橋で別れて沢沿いを進む。細い道はくねくねと曲がりながら緩やかに登り、山の懐へと入っていく。「雲風呂」「雨降り」「下り」という奇妙な名前の集落を過ぎた先が「峰谷」だ。バスはここまでしか来ない。もっともそのバスも、朝昼夕の一日三本しかない。

峰谷で道は二手に別れて登っていく。右を行けば「奥」、左を行けば「峰」、どちらも東京最奥の山村だ。

今回は左を行く。峰を通ってその先の山へ登るのだ。

峰谷までは緩やかだった道は、ここから急になる。沢を離れて山に取り付くのだ。九十九折の舗装路を歩いていると、軽トラックが1台、追い抜いていった。

1時間も登ると最初の民家が現れた。山の斜面に貼り付くようにして建てられた一軒家だ。そこからさらに登っていくと、道は緩やかになり、視界が開けた。ここが峰だ。隠れ里、もしくは桃源郷、そんな言葉がぴったりのところである。

山の中腹にこんな平坦な場所があり、そこにも集落があって人が暮らしているというのは、なんだか不思議な気持ちになる。

ここを訪れるのは10年ぶり? いや、それ以上だろうか。ひさしぶりのその姿は、なにも変わってないように見えた。

峰の中心部を過ぎてさらに登ると現れる一軒家が最終民家だ。舗装路はもう少しだけ上へと続く。

舗装路の終点から山道が始まる。