寂しい秋の山の湿原 – 平ヶ岳

夜明け前から歩き始めて単調な尾根を登り、いくつかのピークを超えて池ノ岳まで来た。ここまで登ると、目の前には秋色の湿原が広がり、池塘は空の色を映して深い。

ここまで4時間半、思ったよりも早く着いた。日帰り最難関の百名山などと言って世間が煽るから身構えて来たが、これならいつもと変わらない。

ここからは山上の湿原歩きだ。緩やかな木道を歩いて、まずは山頂へ行ってみることにした。

予想よりも天気は良くない。さわやかな青空に輝く黄金色の湿原歩きを期待していたが、なんとも寒々しい風景だ。

山頂からさらに先へ進むと、すぐに通行止めになる。このまま突っ切って歩いて行けば尾瀬に至る。いつか残雪の季節に反対側からここに到達したい。

それにしても平らな山だ。平ヶ岳というその名の通りの山頂だ。太古の平野が隆起して山になったというが、まさに平野がそのまま持ち上がったようなところだ。

ここでお昼ごはんを食べることにした。途中のパキスタン料理店で買ってきたビリヤニは、湿原と同じ秋色だった。そして、すっかり冷めていて、寒々しい風景そのものであった。

食べているうちに天気は悪い方へと変わっていった。気温も下がり、体もすっかり冷えてしまった。

秋はあまり好きではない、人を寂しくさせるから。こんな曇天の日にはなおさらだ。

最後は寒さに震えつつ、たっぷり2人前はありそうなビリヤニを食べ終えて立ち上がった。

山頂のにぎわいを横目に通過して、次は玉子石へ向かう。

玉子石から見下ろす小さな湿原は、池塘が密集していてまるで箱庭のような可愛らしさ。あそこまで降りてみたかったが、道はなかった。道がなくても降りられるけど、さすがに自粛しておいた。

池ノ岳までもどり、木道の端に腰を下ろした。風は冷たく景色は物悲しい。だが、これはこれで悪くない。どんな風景も人生の一部だ。

名残惜しく立ち去りがたいが、いつまでもこうしているわけにもいかない。高層湿原とはここでお別れだ。

立ち上がり回れ右をして、あとは長い下山路が待っている。

2020年10月