歴史の山と信仰の山 – 岩櫃山 / 嵩山

集落の真裏に聳える厳つい岩山、あれが岩櫃山だ。

かつては山中に城があり、いまでも城址が残っている。見るからに堅牢そうな山城だ。

岩櫃城には真田氏が居城していた。真田氏を題材にした大河ドラマの舞台にもなったという。真田氏については詳しくはないのだが、様々な物語がこの地でも展開したのであろう。

厳つい山容だが、よく整備されていて、登るに困難はなかった。

山麓には潜龍院跡がある。敗走する武田勝頼を迎え入れるために真田昌幸がここに館城を建設したと言われている。

結局、勝頼はこの地に辿り着くことなく甲州の天目山で自害してしまうのだが、もしも勝頼が逃げ延び、真田昌幸が武田氏を担いで織田徳川連合軍と対決したら…また違った歴史が紡がれたかもしれない。

さて、下山したが、まだ朝の9時を回ったばかりだ。少し移動して別の山に登ろう。

嵩山と書いて「たけやま」と読む。知らないと読めない山名だ。道の駅のすぐ裏手にあって、ここも人里と近い山だ。死者の魂が帰る霊山として信仰されており、そのために山を傷つける恐れのあるクライミングは禁止されている。

信仰の山らしく山中のあちらこちらに社や石仏があり、三十三観音巡りや胎内くぐりといったアトラクションもある。以前はテーマパーク的にも楽しまれていたのだろう。

小天狗、中天狗とピークに登り、山頂である大天狗への分岐は通り過ぎて、先に北の五郎岩まで行ってみた。ここでお昼ごはんにする。お昼ごはんは登利平の鳥めしだ。岩櫃山から嵩山へ移動する途中にたまたま見かけた店舗で開店を待って買い求めたのだ。

以前にも登利平の鳥めしを山の弁当にしたことがあるが、その時は夜に買ったものを翌日に食べたので、あまり美味しくなくなっていた。保存料をたっぷり使ってるわけではないので賞味期限は短く、本来は数時間以内に食べなくてはならないのだ。

今回はまだ1時間しか経っていない。上品な味を堪能することができた。

お腹が満たされたら山頂へ向かおう。

分岐からは長い岩場が続く。鎖に捕まり登っていく。傾斜はさほど急ではないので登るのに難しいことはないが、長くてダルい。どこまで続いているのかわからない。下るのはめんどくさそうだ。

岩場を登り切った小広場の背後に大岩がある。その上が山頂だ。

山頂は、岩の上の吹きさらしの狭いスペースだ。風が強く吹いている。煽られてよろけるとヒヤッとする。足を踏み外したら真っ逆さまに落ちていってしまう。

でも、なんて気分がいいんだろう。

二つの山を堪能し、名物の弁当も食べた。こんな小さな楽しみの積み重ねがあるから、毎日を生きていけるんだな。

幸運な人生に感謝して、ゆっくりと山を降りた。

2021年5月