奥多摩の超マイナー尾根を行く – 丸山 / 高水三山 / 永栗ノ峰 / 大指山 / 夕倉山
川沿いを行ったり来たりし、集落内をうろうろ歩き、ようやく入山地点を発見した。山に登る前にずいぶん時間を使ってしまった。マイナー尾根あるあるだ。
軍畑を起点にして、高水三山をぐるっと歩いて戻ってくる。高水三山に行きたいわけではない。目的地はその前後の尾根上にある。マイナー尾根のマイナーピークを踏みに行くのだ。
典型的な奥多摩らしい地味な尾根を登っていくと、樋口入という小ピークがあった。
ふーん、初めて聞く名前だ。
その次は丸山である。丸山という山は無数にあるけど、こんなところにも丸山があるとは知らなかった。山名板が見当たらないが、ここであってるだろう。
ここが第一番目の目的地だ。
この丸山が、東京里山100選という2013年に発刊された書籍で紹介されているらしいのだ。この本で紹介されているのは、標高数百メートルからせいぜい千メートル程度の山ばかりなのだが、なぜか異様にマイナーな尾根上のピークがいくつか含まれている。初級中級山歩きガイドと謳っているが、どう考えても初級者や中級者はここへは登ってこないだろう。大昔なら歩く人もちらほらいたかもしれないが、2013年当時はすでに超マイナー登山道となって久しかったはずだ。実際にその二年前に発行された登山地図には、ルートとしての記載が無い。
いったいどういう経緯でこの丸山が掲載されているのか、当該の書籍を持っていないので判断がつきかねるが、とりあえず登ってみようというのが今回の趣旨である。
そしてその丸山は、予想してた通りのなんの特徴もない地味な小ピークであった。まあ、そうだろう。
そのまま尾根を登っていくと、沢井からのメジャー登山道と合流して惣岳山に至る。惣岳山の手前では展望が開けて、先週歩いた棒ノ峰から川苔山への稜線や、これから向かう岩茸石山から高水山への山並みが見渡せた。今日は99%樹林帯だろうから、貴重な眺めである。
岩茸石山で休憩してトレラン大会をやり過ごし、高水山に到着したときには、朝からパラパラと落ちていた雨が、けっこうな降りになっていた。
常福院からは下山コースに入らずにマイナー尾根へ向かう。次の目的地は永栗ノ峰だ。どこだそれ?と思うだろう。おそらく誰もがどこだそれ?と思うに違いない。私もどこだそれ?と思った。しかしそこも、東京里山100選のひとつなのである。
歩き始めてすぐに林道に出た。これは楽だと快適に歩いていたが、このまま林道を進むとピークは巻いてしまいそうだ。適当なところで適当に山に入る。適当過ぎて再び林道に出てしまったので、今度は慎重に尾根に乗った。すぐに踏跡が見つかり、辿っていくとピークらしき場所に着いた。
ここかな?ここが永栗ノ峰でいいのかな?山名板があったが、文字は擦れて読めなかった。
三番目の目的地は大指山だ。ここも東京里山100選のひとつである。なんとか指山というのは奥多摩にいくつもあるから、ここもその仲間だろう。糠指山とか赤指山とか沖ノ指山とか、指沢山というのもある。
相も変わらず地味な尾根を進んでいく。同じような標高のピークが複数あって、大指山がどれだか特定しづらかったが、たぶんきっとここだろう。まあ、違っていても、いちおう全てに登ったから登頂はしているのでよしとする。
あとは松ノ木峠から松ノ木トンネルの入口へと下山して、舗装路を歩いて行けば、スタート地点の軍畑駅までもどれるのだが、その前にもうひと山登る。
ここからが本番だ。
峠から先は、ここまでの道とは様子が違った。
ここまでは、一般ルートでないとはいえ、それとはっきりわかるトレイルがあった。しかしここでは踏跡は薄く、しばしば消えてしまっている。尾根が細かく分岐していて、小ピーク上で歩きやすい方へと進むと、あらぬ方向へ下ってしまう。一回一回、進む方向を確認せねばならない。
松ノ木峠から45分で夕倉山に着いた。予想した通り、山頂は樹林に囲まれたなんの特徴もない小さなスペースだった。まあ、そうだろう。
いちおうここが今回の最終目的地である。ここに来るためにマイナー尾根をぐるっと大きく回ってきたのだ。なぜそんなことをしたのかと問われれば答えに困る。なぜここに来たのかと問われても答えに困る。来たかったからというのは答えになってないから、歩いたことがなかったからとでも答えておくしかない。行動の理由というのは、言語化できるのものばかりではないはずだ。
せっかく来たので腰を下ろして菓子パンを齧った。後は、いま来た道を引き返して松ノ木峠から下山するだけだ。舗装路に出たら、一時間も歩けば駅に着くだろう。
他人から見たら意味不明な、でも個人的には充実して満足した、地味で長い一日もまもなく終わる。
2021年5月