栃木のカサ増しそば – 大根そば / ニラそば / じゃがいも入り焼きそば

戦中や戦後の食糧不足で、わずかの米にイモやカボチャを混ぜて粥にしたなんて話をご年配の方からうかがうこともあるが、栃木ではいまでもそんなカサ増しの麺類が、街の蕎麦屋や食堂で提供されているのに出会う。それらは元は主食の増量だったかもしれないが、いずれも他では得難い魅力を持っている。

1. 大根そば

栃木県内の蕎麦屋のメニューでよく見るもののひとつに大根そばがある。けんちん汁的な蕎麦かなと思ったが、メニューをよく見ると冷たい蕎麦に分類されている。じゃあ大根おろしで食べるのかなと試しに注文してみたところ、蕎麦の上に刺身のツマのように細く千切りにした大根がトッピングされて出てきた。これはなかなかに貧乏くさい見た目である。

刺身のツマ状の大根は、生ではなく軽く茹でられていた。大根が熱せられたことによって引き出された程よい旨味と、失われずに残っているシャクシャクした歯触りが絶妙に蕎麦と合う。蕎麦に刺身のツマをのっけただけなのに、なぜこんなに美味しくなるのだろうと、初めての体験に夢中になって食べた。

まだ出会ったことはないが、店によっては大根が生だったり、蕎麦と大根が混ざって出てくることもあるらしい。それだと貧乏くささが一段と上がるような気がする。

2. ニラ蕎麦

県内の主に鹿沼地区で食べられているカサ増し蕎麦がニラ蕎麦である。大根そば同様に、冷たい蕎麦に軽く茹でたニラをトッピングしたものだ。

蕎麦にニラ?そんなのヘンじゃない?とあなたは思ったかも知れない、私も最初はそう思った。しかし食べてみるとこれが不思議に合うのだ。蕎麦にニラ、抜群の相性ではないか。むしろニラがないと物足りないと感じるくらいだ。ニラは古代から食べられていたということで、日本の食べ物とは合うのかもしれない。

鹿沼地区はニラの産地である。その辺でいっぱい取れるニラを適当に蕎麦と食べたのが最初かもしれないが、これがクリーンヒットになり、今では鹿沼の名物として売り出している。しかしニラと蕎麦の組み合わせに対する世間の先入観のせいか、地元以外に広まる機運は見られない。

3. じゃがいも入り焼きそば

じゃがいもで増量するのは、カサ増しの定番だ。田舎の子供のおやつにもじゃがいもはしばしば登場する。ソースで味付けたじゃがいもは、昔の子供のハイカラな食べ物だった。

肉入りやイカ入りもあるにはあるが、具はシンプルにじゃがいもだけが定番である。炭水化物と芋でお腹をふくらますのだ。麺は昔ながらの二度ぶかし麺を使っており、ぼそぼそした食感でチープなおやつ感をたっぷり味わえる。

栃木市周辺ではじゃがいも入り焼きそばだが、足利市や桐生市だとポテト入り焼きそばと呼ばれている。ジャガイモがポテトになると、よりチープ感が増す。

なんだか栃木の食べ物をディスってるみたいになってしまい、もしもお気を悪くされたら申し訳ない。しかし、ディスってるわけではまったくなく、むしろ激しく感動しているのである。

代用食の代表のカボチャやサツマイモは二度と食べたくないというご老人も多い中で、栃木のカサ増し麺は、昔ながらのスタイルを維持して愛されている。いつのまにか廃れていても不思議ではない食文化が、いまでも広く一般的なのだ。素晴らしいではないか。

急速に現代化が進む食の世界にあって、消えることなく大切に食べ続けられてほしい。