雪国
雨…。天気予報は良かったのに…。
あまりに寒くて冷たい雨に打たれる気にもなれず、車内でぐだぐだ待機していた。山には灰色の雲がかかっていて、もしかすると上の方は雪かもしれない。伊豆なら暖かいだろうと思って来たのに、まったくの予想外だ。
夜明けから数時間、車内で待機していた。9時過ぎにようやく小降りになったので、外へ出てみた。うん、これくらいなら行けるな。
完全に出遅れたので予定の山に登るのは厳しい。まあ、どこでもいいからその辺を適当に歩くことにしよう。
天城峠の駐車場から歩き始めて、まずは旧天城トンネルへ向かった。ここは日本の道100選のひとつらしい。
日本の道100選は、以前は旅先で近くにあれば歩きに、または車で走りに行ったものだが、あまりにも地味なのでいつのまにか興味も薄れてすっかり忘れていた。
いま確認したらこの何年かで、そうとは知らずに行ってるとこも何箇所かあった。まあ、こういう100なんとかってのは山以外にもいろいろあるけれど、最後まで回り切ったことはない。
トンネルを抜けると雪国であった。
そう、ここはあの小説の舞台なのだ。トンネルの入り口には茶屋の跡なのだろうか、休憩舎があった。
気温が上がってきた。ときおり青空も見える。木々を白く輝かせた霧氷が、溶けてぽたぽた落ちてくる。
山の方へと舗装路を登っていき、遊歩道の入り口から山に入った。
薄っすら雪化粧の遊歩道には踏み跡はなく、ゆるやかなのでどこでも歩けるが、どこが遊歩道なのか判別がつかない。こんなところでロストしたら恥だなと、方位を確認して進む。
適当に歩いていると、青スズ台という場所への分岐があった。名前からしてピークっぽいところのようだ。青スズ台へは遊歩道からそれて斜面を登っていく。一日歩いてどこもピークを踏まないってのもヘンな気分なので、登ってみることにした。
新雪に足跡を付けて登っていく。尾根は広く穏やかで難しいところもない。空は青く、山は白い。
青スズ台からは伊豆の海が見渡せた。なかなか気分のいい場所だ。
再び踏み跡のない尾根を下って八丁池まで行った。ここまで来ると登山者もちらほらいるし、外国人のトレッカーも多い。
今日はここまでにしよう。思いがけず楽しい山歩きだった。
帰り道、あなたと超えたい天城越えまで歩いて、新天城トンネルへと下った。