深南部の三日間 – day2&3

二日目の朝。早々に準備をして出発。

黒法師岳の南斜面を下る。こちらも東側に負けず劣らずの急傾斜だ。笹に掴まりながらそろりそろりと降りていく。

降り切ったところが黒バラ平だ。ここはなんとも気分の良くなる場所である。

ほんとはここで泊まるはずだったんだよなと、ちょっと恨めしく思いつつ、水場へ降りて給水してからバラ谷の頭への登りにとりかかった。

振り返ると、さっきまでいた黒法師岳が堂々と控えていた。

まったくふざけた山だぜ黒法師。これからは、好きな山はなんですか?と聞かれたら、黒法師岳と答えよう。前黒法師岳から登る黒法師岳と。

黒法師岳の奥は丸盆岳に不動岳だ。もう一日あればあそこまで行くのだが、残念である。またの機会を楽しみにしよう。

バラ谷の頭は穏やかで良い山だった。ここも日本俺名山に加えなければならない。

バラ谷の頭の少し先が、日本最南端の2000m地点である。そこを越えると、緩やかな笹原の稜線が続いている。

道はないので適当に笹原を突っ切って歩く。この自由さがたまらなく楽しい。やっぱり山はこうでなくっちゃ。

尾根が広くガスっていると方向をよく確認せねばならないが、晴れていれば楽勝である。見えている山並みに向かって歩いていく。

房小山を超え、さらに先の笹原へ。

しかし長いな。前日の疲れがまったく取れてなく、いっこうにペースが上がらない。

標高が下がるにつれて、笹原から明るい樹林帯へと移っていった。

鋸山、千石平と過ぎ、千石沢のコルから沢へ降りて給水した。水場が豊富なのが、南アルプスのいいところだ。

三合山で一般道と合流。ここからは前黒法師から黒法師、バラ谷の頭、房小山と歩いてきた稜線が一望できる。こうして見ると、なんとも感慨深い。

三合山まででもよかったのだが、もう少し進んでおくことにする。ここまで想定以上に時間がかかっているので、進めるときに進んでおく。

蕎麦粒山に着いたのは17時半近かった。けっきょく昨日と同じくらいの時間になってしまった。

三日目、最終日。

山犬段へ下り、八丁段の頭、板取山、天水と超えていく。

昨日、一昨日はなんだったんだというくらい快適に進む。

あっけないくらい楽勝だ。これがいわゆる登山道ってやつだ。しかし、楽に歩けることが登山の楽しみを深めているかというと、そういうわけではないとも思う。快適な登山道は登山の楽しみをスポイルしてしまう。

そしてついに最後のピーク、沢口山に着いてしまった。あとは下るだけだ。まだ午前10時である。

この三日間のあれこれを思い浮かべると感慨深い。そして、これを下ればもうおしまいだと思うとちょっと寂しい。

深い山。そう、深南部はまさに深い山々だ。意識の奥底に触れることのできる深い山々。

しばらくぐずぐず山頂にとどまっていたが、何人もの登山者が登ってきたので、下山することにした。

休日の寸又峡は多くの人で賑やかだろう。でも、ぼくの心の中には、あの笹原に吹く風がいつまでも吹いている。

2018年4月

深南部

Posted by azuwasa