山に浸りたいとき、向かうのはいつも低山だった
甲州高尾山から棚横手、そして大滝山。
訪れるひとの多くない山域の、名前をあまり知られることもない山々をつないで歩く。
ここまでも一般ルートだったが、ひとりのトレイルランナーに出会っただけだった。この先はバリエーションルート。上日川峠へ抜けるまで、おそらくだれにも会わないだろう。
ひと気のない樹林帯を抜けていく。道は明瞭であったり不明瞭であったり、刈り払いされたのかヤブ漕ぎは少ない。
いったん下って林道に出た、このまま林道を歩いても進めるし、そのほうが早くて確実だけど、林道を横切って山へと入る。
急登のつづら折りを登った先は、開けたピークだった。気持ちのいい場所だ。
破損した標柱が散らばってたので集めてきた。どうやらここは境沢ノ頭というらしい。
このあたり、いまでは地図上に道は無いが、かつては山道が通じていた。いまでは歩く人もほとんどいないのだが、かろうじて道としての名残を留めている。
徒歩で移動するのがまだ当たり前だったころは、現在とは比べ物にならないくらい縦横無尽に山道が通じていた。登山人口が増えたとはいえ、ほとんどの人が似たようなルートを歩くだけで、マイナールートは以前と変わらずひっそりとしている。
道標もあり、ピークの反対側へ下ると、三角コンバという気になる地名の場所へ至るようだ。しかし今回はそちらではなく、左手へ下って源次郎岳へ向かう。
山にひたるならこんな道がいい。自分が山の命の一員になった気がしてくる。登山地図にピンクの線が引いてあるところは、あれは山を改変して作ったなにか別物だなって思えてくる。
くりかえしくりかえし尾根が枝分かれしているので、慎重に方向を確かめ、進むべき尾根を見定めていく。
再び林道に出てきた。バリエーションルートを下って狙い通りの場所にピンポイントで出てきたときは、安心感でホッとするとともに、自己満足の達成感にじんわり浸ることができる。
ここから先は一般ルートだ。それでも歩く人はほとんどいないだろう。
錆び付いた広告看板が登山道の入口にかけられていた。大村崑のオロナミンCの看板だ。ここに広告を出すということは、かつてはそれなりに宣伝効果があったということなのだろう。
源次郎岳の山頂は、がらんと開けて広々としていた。なかなかよいところだが、遮るものがなく少々暑い。
ここからさらに下日川峠、中日川峠と超えて行く。この先もだれにも出会わないだろう。距離が長く道に迷う可能性もあったので途中でビバークもあると思っていたが、どうやら夕方までに上日川峠へ到着できそうだ。
上日川峠は、いつもとかわらず多くの登山者でにぎわってるだろう。そこまで静かに、山に浸って歩こう。