完全おまかせの旅 – 小田原

初めてお会いするTwitterのフォロワーさんに、お会いするついでに住んでる街を案内してもらうことになった。希望もお願いも特になしで、なんでもOK完全おまかせの旅である。

向かったのは小田原、ずいぶん前に一度だけ来たことがあるが、まったく記憶に残っていない。

集合場所として指定されたのは風祭駅、聞いたことのない駅名だ。調べてみると小田原から箱根登山鉄道で二駅だった。さらに二駅先まで行くと箱根湯本だ。小田原から箱根って意外と近いんだなってところから発見である。

週末土曜日の箱根登山鉄道は観光客でごった返していた。中国系の観光客がやたらと多い。さみしく寂れた電車を想像してたから、のっけから想定外だ。

風祭駅の小さな改札口を出ると目の前が鈴廣本店だった。鈴廣というのは知る人ぞ知る老舗蒲鉾店で、東京の老舗蕎麦屋の品書きに「かまぼこ(鈴廣)」のように、わざわざ固有名詞が記載されるほどの店である。

改札口からは20mほどの小道で鈴廣に直結していて、店内を通過しないと表通りへ出られない仕組みになっていた。まさに鈴廣のための駅である。改札と鈴廣の中間で待ち、N子さんと無事合流した。

「まずはかまぼこかなあと思って」

私は小田原といえば城かかまぼこしか思い浮かばない。なので、まずはかまぼこ屋へ連れてきてくれたのであった。

「お城は、別に登らなくてもいいと思う…」

もうひとつの小田原名物はあっさり却下された。

鈴廣は老舗蒲鉾店なのだが、いわゆる老舗の雰囲気ではない。いわば巨大かまぼこアミューズメントパークである。1階はデパ地下のようなお土産売り場で、2階3階にはかまぼこ博物館やら、かまぼこ体験コーナーやらがある。もちろん施設内には食事処や喫茶もある。

「まずは揚げかまぼこ作り体験をします」

かまぼこ粉を練ってオリジナル揚げかまぼこを作るそうだ。こんなの自分ひとりでは絶対にやらないだろう。人まかせの旅ならではである。

子供たちに混じって揚げかまぼこを作り、売店でビールを買ってからテラス席で食べた。

鈴廣の隣も鈴廣の施設、国道をはさんで向かい側も鈴廣の施設である。風祭はまさに鈴廣のための駅。そして驚くことに、どこも朝から観光客があふれている。

「観光地だからね。週末の温泉なんて芋の子洗いよ」

小田原に観光に来る人がこんなに多いことにも驚きだったし、朝からかまぼこ屋へ来る人がこんなに多いのも驚きだった。何事も現地を体験してみないとわからないものである。

しばらく鈴廣を冷やかしてから早川漁港へ移動することになった。電車では行きにくいとのことで、30分ほどかけて歩いていく。

Twitterのフォロワーさんというのは不思議な存在だ。会ったことはなくても、その人の日々の行動を知っているし心の声も聞いている。ある意味リアルな知り合いよりよく知っていて、初めて会っても初めて会った気がしない。

いままで何人ものフォロワーさんと会ってきたが、イメージ通りなところとイメージとは違ったところとがあって、そのギャップも楽しい。

「早川漁港では、試食の干物を食べながらビール飲むのがおすすめです」

試食で飲めるの??と疑問だったが、完全おまかせの旅なので着いていくだけである。完全おまかせの旅も良いものだな。意外な発見の連続だし、自分でなにも考えなくていいから気楽である。

デパ地下みたいな試食をイメージしてたが、小田原の干物屋の試食はまったく違った。店の外に炭火を起こした七輪と試食用の干物が置いてあり、そこで勝手に焼いて勝手に食べるのだ。

まずは店内でビールを買ってから屋外の試食コーナーへ向かった。よく来るというN子さんは、試食用の干物をあれこれチェックして金目鯛を見つけて焼いている。ここの干物は、干物よりも生魚に近いくらいの干し具合で、これをいくらでも食べさせてくれるのはなかなか気前がいい。

「缶ビールを買ってから自転車で来て、干物焼いて食べたりもしてるの」

それだとお店は丸損かと思われるけど、まあいいのでしょう。

漁港に隣接する食堂街では、その場で買った魚介類を焼いて食べることができる。これがなかなかの観光客向けびっくり価格で、ホタテ1枚千円なんて値段が着いている。

「スーパーで買ったほうが安いね」

小田原はさすが観光地だけあって、しょぼい小田原名物で一見さんを罠にかけるボッタクリ居酒屋なんかもあるらしい。

「駅前の居酒屋は入らないほうがいいよ」

引っ越してきた最初はいろいろ行ってみたが、けっこうひどい店もあったそうだ。

そういえばN子さん、もともとは埼玉在住だったのが、突然長野に移住して、しばらくしたら今度は小田原に引っ越してたんだけど、なんでまた小田原に?

「なんとなく、理由は特にない。でも田舎は無理だった…」

いわゆる田舎コミュニティの人間関係がたいへんだったそうだ。ゴミを漁ってチェックされるなんてのは田舎伝説かと思っていたが、実際にあるらしい。

「2年半でギブアップだった…」

小田原は適度に都会だし観光地でもあるから、そのへん気にせずに生活できるのだろう。

早川漁港で食事するのはやめにして、小田原駅へ移動した。

「あれ見て、あれ、提灯」

おー、あれが小田原提灯!!お猿のかごやがぶら下げてるやつだ。ソレ、ヤットコ、ドッコイ、ホイサッサ🎵

かまぼこ、干物、提灯と小田原名物を堪能したので、最後は城である。駅ビルの屋上なら見晴らしが良いから城も見えるだろうと登ってみたら、手前のビルが邪魔で隠れていた。しかし駅前のテラスから無事に城を臨むことができた。

かまぼこ、干物、提灯、城、小田原について知ってるのってこれくらいしかないな。

「うん、それで全部でいいと思う」

小田原の名物をひと通り履修した。

駅前の入っちゃいけない居酒屋を教えてもらってから、中途半端な時間でもやってるまともなお店に入った。

アルコールが入って調子が上がり、話してるうちに共通の話題が次々と出てきて、すっかり盛り上がって数時間があっという間だった。

N子さん、無茶ぶりから始まったわがままな一日に付き合っていただいて、ほんとありがとうございました。また機会があればよろしくお願いします。熊谷編なんてどうでしょう?

2024年12月