茂来山
日本の山1000に掲載されているし信州百名山でもあるので、茂来山の名前は何度も目にしている。そんな茂来山だが、佐久市の南で川上村の北という群馬側からも山梨側からも少々行きにくい場所にあるため、登ったことはなかった。
行こうと思ったのはSNSに流れてきた写真がきっかけだ。その写真に写っていたのは展望のないもっさり山ではなく、爽快で見晴らしの良い山頂だった。思い返してみると、今まで誰かに茂来山の話を聞いたこともなければ写真を見たこともなかった。勝手なイメージでもっさり山だと思っていたが、そうではなかったようだ。
林道の駐車スペースに車を停めて、霧久保沢登山口から登山開始した。
この登山道、山の北側にあって沢沿いでもあるので、早朝はまったく陽が射さない。薄暗くて寒々しく侘しい道だ。他にだれも歩いていない。木々は冬枯れで葉を落とし、空気は冷たくひんやりして侘しさが増す。
案内板に「コブ太郎」とあり、いったいどんな場所なのか興味津々で立ち寄った。
そこには一本のトキノキの大木が立っていた。コブの多いその姿からコブ太郎と呼ばれるようになったのだろう。実を利用するために、切り倒されて薪になることなく残ったのだという。
カモシカかトナカイの顔にも見えるし、カマキリの顔にも見える。もしくはバンザイしたトップレスの女性にも見える。写真を撮ったが陽が当たってないので暗く潰れて、コブの様子はうまく写らなかった。
2時間歩いて稜線に出ると、ようやく太陽の恩恵に与ることができた。明るく暖かくなるとホッとする。
稜線に出たらすぐに山頂だ。
山頂からは周囲の山々が見渡せる。八ヶ岳、南北アルプス、浅間山、奥秩父などなどなど。見えてる山はだいたい登っている。こうやって登ったことのある山々を眺めるのは気分いい。
山頂には四方原山への道標があった。ここから縦走できるんだ。往復したら4、5時間ってところだろうか。
行ってみたかったが、時間も遅いのでまたの機会にしよう。今日はのんびりするのが目的だ。
秋が終わり冬が始まる前のこの季節、風景は煌めいて美しさを増す。気持ちの良い山頂で過ごすには最も良い季節だ。
だれも登ってこない。静かで穏やかで、いつまでもいられそう。本を持ってくればよかったな。
なんだかんだで1時間半ほど山頂にいた。
ピストンなので登りと同じルートで下山する。
寒々しい沢道には少しだけ陽が差し込んでいた。コブ太郎にも陽が当たり、その艶めかしい姿を露わにしていた。
帰宅してしばらく経ってから知ったのだが、茂来山は嫁が欲しい人の縁結びの山で、それと関係あるのか関係ないのか、独身時代の皇太子殿下も茂来山に登っている。そういえば山頂に皇太子殿下登頂の記念碑があった。
なにも知らなかったので、なにも願ってこなかった。
失敗した…。
2023年12月