歩く地獄、真夏の飯豊山 Day1

暑い、重い、暑い、重い。
頭がクラクラする。

なんなんだ、これは

夏休みのうちの3日間を使って飯豊山を歩くことにした。弥平四郎登山口に車を停めて本山小屋でテント泊し、二日目は稜線を散策して三日目に下山する予定だ。初日の今日は本山小屋までの登りなのだが、一向にペースが上がらない。

噂には聞いていたが、夏の飯豊は凶悪に暑い。ギラギラした太陽光線が容赦なく照りつけ、ジリジリ焦げるようだ。周囲の空気は熱と湿気を含んで身体にまとわりつく。意識が朦朧とする。

これがフェーン現象ってやつか。社会科で学んだが体験するのは初めてだ。暑いといってもまあ大丈夫だろうと高を括っていたが、これは厳しい。厳しすぎる。とてもじゃないが、登山をするような環境ではない。

三日分の装備の詰まったザックは大きくて重い。ベルトが肩にずしりと食い込む。そしてなにより、眠くて眠くてしかたない。

寝不足もあったし、暑さにやられたのもあっただろう。ほぼ熱中症だったかもしれない。たまらず登山道の脇に寝転ぶと、ほどなくして眠ってしまった。寝過ぎないように20分のタイマーをかけたのだが、アラームで起こされてもさらにもう20分タイマーをかけて眠った。

少しばかり寝たからといって体力が回復するでもなく、暑さもザックの重さも変わることはない。

空腹は感じるが食べ物が喉を通らない。おにぎりを口に入れても飲み込むことができず、なんとか水で流し込んだ。水も足りなくなりそうで、喉は乾くがあまりごくごく飲むわけにもいかない。

その後も、しばらく歩いては寝る、しばらく歩いては寝るをくり返して、三国小屋に到着したのはコースタイムの4時間を大幅にオーバーした出発6時間半後であった。

喉がひどく渇いている。水切れしないように節約して飲んでいたので、脱水症状も現れていた。

小屋に到着してようやく水が補給できると水場の場所を尋ねたところ、距離があり足場も悪くチョロチョロしか出てなくて時間がかかるので、次の切合小屋まで歩いたほうがいいとのことであった。

やれやれ。とりあえず小屋で飲料を購入して一気に飲み、日陰に横になってしばらく眠った。

空が広く開けていて、開放感のある稜線歩きなのだが、今はひたすら暑いだけだ。切合小屋までは約2時間、とにかく少しづつでも進むしかない。

三国小屋で川入からのルートと合流したので登山者が増えた。みんな死にそうな顔で歩いている。

地獄だ。歩く地獄。灼熱地獄。

夏の飯豊は地獄である。

切合小屋に近づくと、目の前に雄大な飯豊本山が姿を現す。威風堂々として実にカッコ良い。

この山容を目にした瞬間に、これはダメだと悟った。ダメだダメだ、絶対無理だ。あそこまで登るのは不可能だ。本山小屋は山頂直下にあるのだ。

意識朦朧として切合小屋に着いた。

今日はもうこれ以上は歩けない。切合小屋までにしておこう。本山小屋まで登った方が明日が楽なのはわかってるが、明日のことを考えている余裕は無い。まだ14時前だから、登る時間は十分ある。しかしもう気力も体力も残っていない。

テントサイトに荷物を投げ出し、テントも張らず受付もせず、ザックを枕にして横になった。

目が覚めたら夕陽が沈みかけていた。

つづく