登らない山と登らなかった岩 – 迦葉山
ちょいちょい登ってた群馬百名山も80座を超えて残りは17になった。ここまでくると、あとは登りにくい山か、登らない山しか残っていない。
登りにくい山とは、道が無く季節限定であったり、危険箇所が連続していたり、山頂まで超長距離であったりという山だが、こういう山はいつかそのうち登る機会が来る。問題は登らない山だ。
県別の百名山には低山も多く含まれていて、中にはなんでこんなところがと思わずにはいられない山もある。こういうところへは、わざわざ行かなければ一生行くことはない。
今回はそんな、普通なら登らない百名山のひとつ、迦葉山に登る。迦葉山なんて聞いたこともない。読み方は「かしょうざん」である。いま知った。
まずは出発地の弥勒寺に参拝。やけに天狗推しの寺だ。
そして1時間足らずで山頂。
展望もない、途中もずっと樹林帯のもっさり山だ。まあ、普通はわざわざここに登りに来ないよな。
迦葉山最大のアトラクションは和尚台た。登山道の途中、中間地点よりやや登山口側にある。
行きに少し取りかかったが、時間がかかりそうだったので先に山頂へ行き、下山時に立ち寄った。
岩に張り付いて空中に浮かぶ奥の院の下で登山道を離れて向かう。
まず最初は狭いチムニーを鎖を頼りに力任せに登る。チムニーを登り切ったら岩の斜面を上がっていくのだが、これがとても怖い。
手がかり足がかりは乏しく、鎖が頼りだ。角度があって先が見えず、左右が切れていて高度感がすさまじい。
三段ある岩場の最初の段は怖くない。二段目も少々恐怖心がわき起こるが、登ることができた。しかし最後の段の途中で、足が止まってしまった。なんだか行ってはいけないような気がした。
高度感はあるが、難しいわけではない。鎖を掴んで登るだけだ。でも、なんでだろう、ここまででいいやって気になった。これが山頂だったら絶対に登るだろう。山頂ではなく単なる展望台だとしても、ここまで来たら普通は行く。なのになぜやめようと思ったのか。あと数メートルなのに。
鎖を頼りに慎重に岩場を下り、狭いチムニーを降りて登山道に復帰した。
なんであそこで引き返したんだろうと自問自答しつつ下山した。
もしもあそこを登っていたら、見晴らし良いなで終わってしまい、いつしかこの山の記憶も薄れてしまったかもしれない。
登らなかったことで、いつまでも心に留まる山のひとつになった。
2023年7月