裏銀座の五日間 day1

縦走初日ってのは気が滅入る。

わくわくできるのは出発前まで、歩き出せば荷物の重さと登り坂が両肩背中足腰に堪える。数日分の食料が詰まったザックは、出発時が最大重量だ。おまけに天気が悪いときたら、気分も上がらず足も上がらない。

風景が見えてれば気のまぎれにもなるのだが、ガスで真っ白では黙々と登るしかない。初日はたいてい、登りをひたすら登るだけだ。

今回は、初めて夜行バスで新穂高温泉まで来た。裏銀座を縦走して扇沢あたりへ下山する。そこから、バス電車電車バスバスと乗り継いで車の回収をするより、そのまま電車で帰ったほうがはるかに楽で経済的だろうと考えての計画だ。

夜行バスは何ヶ月も前に予約した。夏休みの五日間に合わせての縦走なので、日程はフィックスだ。天気予報を見てからの行き先の変更もできなくなる。まあしかたない。今年の夏休みは裏銀座に決め打ちだ。あとは祈るくらいしかすることはない。

そんな思いで夏休みを迎えたのだが、杞憂が現実になる天気だった。前日までの雨が上がっていたのがせめてもの救いだ。初日から雨に打たれての登山では、気が滅入るどころではすまない。

稜線まで上がると視界が開けた。ガスもいくらか取れている。

周囲の景色が見えると体も軽くなるから不思議だ。背中の20キロオーバーのザックも、いくらか軽くなったような気がする。

小ピークを超えると、雄大な鷲羽岳が姿を現した。よしよし、これが見えただけでじゅうぶんだ。

穏やかな道は双六小屋へと続いている。初日はあそこまで。あとわずか。

つづく