新雪の笠取山ラッセル敗退
ふくらはぎからヒザ下ほどの積雪。トレースは全くなし。
踏み出した脚はズボッと雪に埋まり、埋まった足をよいしょっと持ち上げて、一歩一歩前へ進む。平坦な道でもゆっくりゆっくりとしか進めない。開けた場所では慎重に地形を確認して、進むべき方向を見極める。
歩き始めてしばらくした頃には、とても山頂まではたどりつけないとわかった。コースタイムの倍の時間がかかってるから、山頂まで行くと帰り道の途中で日が暮れてしまう。それに体力的にもキツそうだ。
思えば出発前からつまずいていた。
作業平へ向かう林道は三ノ瀬を過ぎると徐々に雪が深くなり、やがてこれ以上は進めなくなってしまった。引き返そうにも、容易に車を転回することもできず、登り坂では滑ってしまい、そのうち路肩の雪に突っ込んでスタックしてしまった。
30分ほど格闘し、なんとか車を三ノ瀬までもどすことができた。そして車を三ノ瀬に停めて中島川橋まで歩き、そこから笠取山を目指すことにしたのだ。
しかし、このラッセル地獄である。
もう引き返そうかな。ここで引き返して温泉でのんびりしようかな。
頭の中ではずっとそんなことを考えながら登っていた。
シカの足跡があれば、それが登山道から外れるとこまで行って引き返そうと思い、クマの足跡を見つけたら、それが森に帰る場所を確認して引き返そうと思う。
山頂まで到達しないとわかっていて前へ進むのは虚しい。
黒エンジュの分岐を終わりの場所と決めてそこまでがんばった。が、黒エンジュに着くとやはりその先の山頂を目指して進んでしまう。
そこから先は傾斜が急になり、まるで雪の中を泳ぐようにして登る。
水干に着いた時には、もういいもうじゅうぶん、ここで引き返そう、と声に出して言っていた。
そこがこの日、暗くなる前に下山できるギリギリの場所でもあった。
下り始めてすぐ、あと少しだったんだから山頂まで行っとけばよかったなって気持がこみ上げてくる。
または、あそこまで行って撤退するなら、もっと早くに引き返して温泉でくつろいでればよかったのに、とも。
でもしかし、次にまた同じ状況になったら、同じように行けるギリギリのところまでは進んでしまうのだろう。なぜならそれがぼくにとってのアルピニズムだから。
2013年12月