泥濘とゲレンデ – 横手山 / 志賀山
草津から国道292号線を車で上り、国道の最高地点である渋峠に車を停めた。ここから関係車両以外は通行禁止の管理道路を登っていき、30分も歩けば横手山に到着する。
夜が明けたばかりの山頂には他にだれもいない。
ロープウェイが動きだせば観光客で賑わうのだろうが、いまは暖かな朝の光に包まれて静かだ。
ひと休みしたら、志賀山方面へ歩いていく。今日はのんびりと志賀高原を散策しに来たのだ。
歩き始めてすぐに、これは違うと気づいた。緩やかな起伏の連続する緑の草原をイメージして来たのだが、実際は樹林帯で展望はゼロだ。道は狭く荒れて急傾斜であり、ところどころで藪がうるさい。暗くて陰気でじめじめと湿っていて、足元はぐちゃぐちゃの泥濘である。
明るい高原に来たつもりが、泥々の藪かよ…。
そんな陰鬱な山道を二時間も歩き、四十八池まで来ると様子が変わった。登山道は整備されて歩きやすく、ちらほらと登山者の姿も見られる。
四十八池の木道を抜けて、志賀山に向かう。
志賀高原とは、草津温泉の北西一帯に広がる高原地帯の名称である。代表的な山は日本百名山の本白根山だ。その他にも岩菅山や横手山、笠ヶ岳といった二百名山、三百名山がある。そんな中で「志賀」の名を冠する志賀山とはどんな山なのだろうと、ずっと気になっていたのだ。
登るにつれて視界が開けてきた。
振り向くと横手山が見える。斜めに尖ったかっこいい山容だ。あそこから歩いてきたのだ。
遠くに見える三角の頂は岩菅山だろうか。次回はあそこまで行ってみたい。
だれも登ってこないし、時間はたっぷりある。
大沼池を見下ろす見晴らしのいい場所で、ゆっくり休憩した。
裏志賀山に立ち寄ってから、志賀山を目指す。
ここにたどり着くまでの泥濘の薮とは打って変わって、気持ちのいい山歩きになった。
志賀山を経由し、湿原を取り囲む尾根をぐるっと回って硯川に下山した。
硯川でバスに乗り、渋峠までもどるつもりであったが、なんと自転車レース開催のため国道が全面通行止めになっていた。しかたがないので徒歩でもどることにして、国道をてくてく歩いていたら、レースの係員に酷く叱られてしまった。歩行者も通行止めのようだ。
途方に暮れていると、スキー場を歩いて帰れと言う。横手山の山頂からここまで、まっすぐにゲレンデが下ってきている。リフトの下を登っていけば横手山を越えて渋峠までもどることができる。
見るからにキツそうな登りであるが、ゲレンデ登りは想像以上にキツかった。リフトで上がりスキーで下るその傾斜は、とても人間が歩いて登る角度ではない。広々として遮るものはなく、直射日光が照りつける。たまらずゲレンデの端の木陰に腰を下ろして休息をとる。まだ半分も登っていない。
登るにつれて傾斜はキツくなってくる。急登の直登だ。捕まるものもなく、足の力だけで登らなければならない。ゲレンデ登りがこれほどつらいものだとは思いもしなかった。
休み休み標高を上げていると、スキー場の外をつづら折りに登っていく国道に自家用車が走り始めた。どうやら通行止めが解除されたようだ。
ゲレンデの端の薮を突っ切って国道へ出た先が、のぞきのバス停であった。ここまでバス停2つ分をゲレンデで登ったことになる。この次の渋峠までは国道を歩く。それなら傾斜は緩やかだし、横手山の山頂を巻くこともできる。ゲレンデはもうたくさんだ。
渋峠の手前では、バスにも抜かされた。硯川で待っていれば、このバスで楽に帰ってこれたことになる。まあいいや、ゲレンデ直登もひとつの経験と思うことにしよう。バス代の節約にもなったしな。
2022年9月