黒滝山の山頂の謎

ぐんま百名山のひとつの黒滝山だが、黒滝山という名のピークは無い。不動寺を中心として、五老峰や九十九谷、馬の背などを含む一帯の総称が黒滝山である。山岳信仰の霊場であり、千年以上の歴史があるという。

五老峰の最高峰は観音岩だ。最高峰といっても標高880m、夏に登ると猛烈な暑さに見舞われる。

いちおう一般ルートの登山道ではあるが、西上州らしく適度に荒れている。

馬の背はクサリやハシゴが設置してあるので見た目ほどは怖くない。しかし、観音岩から鷹ノ巣山へ向かう途中の、足がかりもなくつるつる滑る岩のトラバースは、どうやって通過したらいいのか悩んだ。

鷹ノ巣山からは不動寺と反対側の集落へ下った。そこからは林道を歩いて出発地点の不動寺へもどることができる。

不動寺への周回ルートの終盤で、コースを外れて荒船山方面への縦走路へ入った。縦走路はトラバース気味に通っているので、適当なところで斜面を登り尾根の上に出る。この尾根上の小ピークが、このあたりの最高地点らしいのだ。

そこは予想した通りの、樹林に囲まれたなんの変哲もない小ピークであった。唯一「黒滝山」とマジックで書かれた木片が、ここが最高地点であることを示していた。

この小ピークが霊場である黒滝山の範囲に入るかどうかは怪しいが、同じ山の一帯であることは間違いない。

黒滝山の山頂は、観音岩とするものと、この小ピークとするものに分かれている。黒滝山の歴史的な解説だと観音岩としているものが多いが、登山的には小ピークのほうを山頂とする傾向のようである。

物理的な最高地点なら小ピークの方が高い。しかし古来からの日本の習慣では、最も山頂にふさわしい場所(つまりはもっとも神聖だと考えられる場所)を山頂としてきた。山の高さを数値で表すようになるのは、近代西洋思想が入ってきてからのことである。

最高地点と古来からの山頂が異なる山は日本中にたくさんある。こんな場合、どっちへ登ったら登頂したことになるのだろうか。最高地点だけのピストンでは、その山の最も良い部分をスルーしてしまう。かといって最高地点へ行かないと現代登山的には登頂したとはみなされなくもない。正解はないので、そういう山ではどちらにも登ることにしている。

そういうわけで、黒滝山最高地点である小ピークにもわざわさ立ち寄ったのであった。

が、しかし、ここで想定外なことに気付いてしまった。この小ピークの標高は870mなのだ。標高880mの観音岩より10mも低い。てっきり最高地点だから山頂としているのだと思っていたが、そうではないようだ。

では、展望も無く見どころも無く、登山道から外れた尾根上の、樹林帯に囲まれたうす暗い小ピークが、いったいなぜ山頂とされているのだろう。

謎である。

2022年6月