山ガールに負けた日 – 恵那山

広河原に車を停めて林道を30分歩き、登山口から沢へ下りて沢にかかる橋を渡ると、いよいよ恵那山への登山開始だ。

が、あれ?あれ?

橋がない。いや、あるにはあるが、あるのは流されて破壊された橋の残骸だった。

前日の大雨で増水した沢の流れは速く、徒渉も無理だ。

周囲を見回すと、100mほど上流に遡れば、川幅が広がって流れは緩やかになっている。あそこなら渡れそうだ。

さて、どうしよう。

これが初めて登る山だったら、間違いなく行く。だが今回は、登ったことのある山の、それも登ったことのあるルートだ。天気も曇りでいまいちだし、無理する理由が見当たらない。

山を諦めたら時間に余裕ができる。そうするか。

とりあえず、こわれた橋を眺めて朝ごはんを食べた。

さて、帰ろうと立ち上がり、ザックを背負ったところで、二人組の若い女の子が現れた。

二人は、橋を一瞥して無理と判断し、上流へと歩いていった。

私はザックを下ろして岩に腰掛け、結末を見届けることにした。

二人は沢岸を行ったり来たりし、沢底を指差してなにやら相談している。

長々と検討していたが、ひとりが意を決して靴を脱ぎ、沢を渡り始めた。30mほどの幅がある沢を慎重に歩いていく。

ひとりが渡り切ったら、もうひとりが沢へ入った。途中で一度、転びそうになっていたが、なんとか耐えて向こう岸へ渡った。

お互いが徒渉している間は、お互いの写真だか動画だかを撮り合ってて、エンジョイしてるのがこちらまで伝わってくる。彼女たちにとって、思い出に残る大切な山旅のひとつになるだろう。

二人が渡り終えたのを見届けて、私は立ち上がりザックを背負って林道へもどった。

二十歳そこそこの女の子たちに負けてるなあと思った。負けてるのは登山うんぬんではなく、人生を楽しむ力である。

2022年5月