豆佐嵐山
SNSで流れてきた1枚の山頂写真、そこに写っていた山名板の文字を見て、あれ?と思った。あれ?ここって登ったことあったっけ?
豆佐嵐山
そう聞いてピンとくる人はあまりいないだろう。戸倉三山の刈寄山に近く、あきる野市と八王子市の県境にある山だ。標高648m、展望は無く樹林帯に埋もれて薄暗い。さえない山だが、それでもいちおう多摩百山である。選定理由は不明だ。
多摩百山は数年前に達成したので豆佐嵐山にも登っているはずだが、登った記憶がない。そのあたりを歩いた日の写真を見返してみたが山頂の写真はなかった。まあ、山の名前が書いてある棒や山の名前が書いてある板の写真を撮る趣味はないから、写真がないからといって登ってない証拠にはならないが登った証明にも当然ならない。
GPSの軌跡も確認した。確かに豆佐嵐山付近を通過している。だが、奥多摩の登山道ではよくあるが、縦走路はピークを巻いて付いていて、どうでもいいショボいピークはどれもこれも巻かれてしまっている。もちろん豆佐嵐山もだ。漠然と登山道を歩いていると山頂には行けない。ピークを踏むには縦走路を外れてわざわざ登りに行く必要がある。ピークと縦走路では高低差はあるが、地図上の平面距離はわずかだ。GPSの軌跡では誤差の範囲になってしまい、どちらを通過したのか判断できない。
もやもやする…。
多摩百山はすべて登ったと思っていたが、もしかしたら登ってない山があるのかもしれない。もやもやする…。
このもやもやを解消するには、わざわざ登りに行くしかない!そんなこんなで、豆佐嵐山へ行くことにした。
以前に歩いたときは武蔵五日市駅からバスで元郷まで行き、戸倉三山を歩いてから豆佐嵐山に登って(登ってないかもしれないけど)、今熊山から小峰に下山した。今回はその逆コースで歩く。
まずは武蔵五日市駅から今熊山の登山口へ向かう。1時間の舗装路歩きだ。出発が遅かったので日射しが暑い。登山口まではずっと登りだ。汗が吹き出す。登山口に着いた時には、すでにかなりバテていた。
登山口から30分ほどで今熊山に着いた。実は、豆佐嵐山だけでなく、今熊山も登った記憶があやしい。豆佐嵐山のような巻道はなく必ず山頂を通過するので登ってないはずはないのだが、いまいち確信が持てない。戸倉三山ははっきり覚えているし、下山して小峰公園の管理事務所の前の自販機でコーラを買って飲んだのもよく覚えているが、その間の記憶がすっぽり抜け落ちている。
山頂をうろうろし、なんとなく見覚えのあるようなないような、いやいやここは来たことある気がする、うんうん来た来た、たぶん来たと納得させて先に進んだ。ちなみに今熊山も多摩百山のひとつである。
次は豆佐嵐山だ。ここから1時間くらいのはずだが、ボケボケしてると通過してしまう。よく地図を見て通り過ぎないよう注意して進む。
それにしても暑い。喉が乾き、意識が朦朧としてくる。今回は冷やしたゼリーを二つ持ってきた。夏山で汗を流して食べる冷たいゼリーは最高に美味しい。ゼリーゼリー、早くゼリーをくれ…。
いかんいかん、ゼリーのこのばかり考えてるとうっかりピークを巻いてしまう。我に帰って現在位置を確認すると、そろそろ縦走路を外れてピークに向かう場所だった。
ピークに向かう踏跡はあるが、これがオフィシャルな登山道なのかどうかは判然としない。当然ながら道標など無い。自分でしっかり把握する必要がある。日本百名山より多摩百山のほうがよほど難しいかもしれない。
よし、ここだ!というポイントで縦走路から外れてピークへ向かう踏跡に入った。そしてしばらく登るとあったあった、豆佐嵐山だ。
うん、想像通りの山頂だ。狭くて暗くて展望がない。なんの特徴もない普通はわざわざ登ったりしない山だ。でもいいのだ、これでほんとに多摩百山達成だと胸を張って言える。
いや、ちょっと待てよ。もしかしたら他にも登ったかどうかあやしい山があるかもしれない。いや、いい加減で適当な自分のことだから、おそらくあると考えた方が間違いないだろう。
百山を自分でひとつづつチェックしていくなんてめんどうな事務的作業は苦手なので、完全にアプリに任せている。GPSファイルを読み込ませると自動で登った山をカウントしてくれるアプリだ。だが今回のように巻道とピークが誤差の範囲の距離だと、巻道を歩いても登頂したとカウントされてしまう。今回もSNSの写真を見るまで気づかなかったので、一度すべてチェックしないといけないな、と思うもののたぶんやらない。めんどうな事務的作業は苦手なのだ。
とりあえずそのことは置いといて、ゼリーを食べることにした。冷たいゼリーと冷たいみかんはこの世の食べ物とは思えないほどの美味しさだった。まあまあ重いのにたいしたカロリーも補給できないが、それでもこの美味しさには代えられない。
あっというまに食べ終えてしまった。もうひとつの白桃ゼリーも食べたかったが、もったいないので温存した。
豆佐嵐山、以前に来たことがあるのか来たことないのか、しばらく山頂にいたが思い出せなかった。なんとなく見覚えがあるような気もするが、あまりに特徴が無さ過ぎて確信が持てない。
まあ、いいだろう。豆佐嵐山、今日で二度と忘れることのない山になった。
2024年7月