年越しは、ひとり静かに – 石尾根 / 長沢背稜

やっと着いた。ようやく鷹ノ巣山だ。

奥多摩駅を出発してから、八時間近くもかかってしまった。四日分の食料と二日分の水が詰まったザックはずっしりと重く、歩みは遅々として進まなかった。

山頂の手前で視界が開けるまで、ずっと樹林帯が続く。黙々と登るしかない。

避難小屋まで下って初日は終了。

二日目の朝、天気はいいけど風が強い。

気持ちいい石尾根を歩いていく。

日陰名栗、高丸山と超えて七ツ石山へ至る尾根道は、石尾根の中でももっとも好きな区間。初めて歩いたときの、青空の下で輝く雪景色は、いまでもよく覚えている。

七ツ石の水場で水を汲んでおく。この先は水が出ていない可能性が高いので、残り二日分をここで汲んでおかなければならない。

七ツ石から雲取山までは、さすがに歩いている人も多かった。といっても十数人くらいであったが。

いつもは賑やかな雲取山荘のテント場も、この日は数張りしかなかった。年末だから、みんな忙しいのだろう。こんな時にぷらぷら山を歩いてるのは暇人ばかりだ。

雲取山荘では、やはり水は出てなかった。汲んでおいてよかった。

三日目は朝から天気がよろしくない。夜半に降った雪がうっすら積もっている。

灰色の空の下、長沢背稜を歩く。誰にも会わない。静かな山だ。

長沢山、酉谷山と超えていく、途中ひとりすれ違った。この日に出会った唯一の人であった。

七跳山、天目山と超えて、この日は終了。このまま暗くなっても歩き続ければ今日中に下山できそうだけど、まだしばらく山にいたい。

四日目、夜明け前から歩き始める。

蕎麦粒山の北斜面を登り山頂に出ると、ちょうど朝日が昇るところであった。

2018年最初の日の出。初日の出だ。

岩も土も木々も自分もオレンジ色に染まる。

今年はどんな一年になるのだろう。

見渡せる限りを歩いてきた。あとは川苔山、本仁田山と超えて、奥多摩駅までもどるだけ。

下山したら、まずは風呂。それからビール。そしてなにか美味しいものを食べよう。ここまでずっと粗食だったから。

それまであと少し、静かな山に浸って歩こう。