奥多摩ピークハンティング – 金比羅山 / 白岩山 / 麻生山 / 日の出山

土曜日が仕事になってしまい、日曜は映画を観に行く予定がある。今週は山には行けないなと思っていたが、日曜の朝に目覚めると思いのほかの好天だった。

よし、行くか。映画は夕方からだから、それまでにもどってくればいい。登って下って温泉に入って電車に乗って、15時30分に立川に着けばいい。

となると、行き先は奥多摩だ。できれば登ったことのない山か、せめて登ったことのない尾根を歩きたい。行動時間と移動距離と温泉位置を考慮して、まずは武蔵五日市駅へ向かった。

数年前まで仕事でこのあたりを担当していて、その当時はこんなものだと思っていたけど、ひさしぶりに来るとやっぱりずいぶんな田舎だ。とても東京とは思えない。ちなみにいまは23区内勤務である。

登山用のではなく、映画館に持ち込んでも迷惑にならない大きさのリュックに水と食料とタオルと着替えを入れてきた。まあ、低山だし、天気も悪化しそうにないし、いざとなればエスケープもできるからいいだろう。それより問題は、ちゃんと温泉に入れるだけの余裕を持って下山できるかだ。遅れると汗臭い迷惑客になってしまう。

武蔵五日市駅から金比羅尾根を登る。この尾根を歩くのは初めてだ。だから、途中にあるピークはすべて初めて登る山になる。

暑いけど、樹林帯なので直射日光は浴びずにすむ。緩い登りをサクサク歩く。

1時間もかからずに金比羅園地に着いた。立派な東屋にトイレもある。金比羅神社はそのすぐ上だ。

神社の裏手に実に立派な堂々とした岩があった。見えない力に引き込まれるようにして縦走路から外れ、気づいたら岩の前まで登っていた。きっとこの岩が御神体なのだろう。この岩に会うためだけにでも、ここまで登ってくる価値がある。

で、このあたりが金比羅山の山頂だと思っていた。しかし、しばらく進んでから地形図を確認すると、どうやらさらに奥の、登山道からだいぶ外れたところが最高地点のようだ。

なんだよー。通り過ぎちゃったよー。入浴時間の確保問題がちらっと頭に浮かんだが、引き返して山頂を探す。

登山度から外れた踏跡を、それらしいピークの方へと伝う。歩く人はほとんどいないのであろう、とても立派な蜘蛛の巣がいくつも張っていた。蜘蛛に申し訳ないので、蜘蛛の巣はくぐったり巻いたりして進む。しばらく登ると踏跡は平坦になり、やがて下り始めた。あれれ? あの平坦部のどこかが山頂か? でも、両側が藪のただの踏跡だったぞ。

行ったり来たりして、このあたりが最高地点かなというところで、ただの薮の写真をいちおう撮っておいた。振り向くと木の枝に手書きの山名板がかけられていた。よしよし、ここが山頂でいいのだな。満足満足。

いまではみんな、山の最高地点が山頂だと思っているようだが、かつては必ずしも最高地点ではなく、山頂としてふさわしい場所が山頂とされていた。そして気づいてないだけで、最高地点ではない場所が山頂とされている山はまだまだ数多く残っている。それとは逆に、山頂にふさわしい素敵な場所があるのに、なんの変哲も無い最高地点が山頂とされている山もたくさんある。

山頂と最高地点が異なる場合、どちらに登ればその山に登頂したと言えるのだろうか。答えはないので、その両方に登ってこそ登頂だということにしている。つまりは、眺めが良かったり社があったり山頂標柱があったりする場所に行き、そのあと必ず最高地点を探し出さなければならないのだ。まあ、道がなかったり崩壊してたりで到達できないこともままあるのだが。

さて、金比羅尾根の続きである。金比羅山を後にしてずんずん登り、分岐からロンデン尾根に入った。少しもどって白岩山にも寄っていく。

立入禁止のフェンス沿いにしばらく進んだ先の小ピーク…というか単なるコブみたいな場所に白岩山の表示があった。この631.7mのコブが白岩山なのだろうか。私の持っている地図にはそうある。しかしもうひとつの、みんながよく持ってるあの地図には、確かにこの場所に山頂マークと標高が記されているが、そこから北へ300mほどの地点に白岩山の表示がある。どちらが正解なのだろう。

私の持っている地図には、ここが山頂と記されている。ここには山名表示板もある。よくあるあの地図にも、ここに山頂マークと標高の表記がある。しかし、よくある地図の山名の表示点は北へ300mだ。現地の山名表示板には、マジックで「違う」と書き足され、631.7mの3が8に書き換えられていた。さらには矢印とともに「この奥」とも書かれている。これは、よくあるあの地図の場所を示しているのだろう。

時々こうした山名表示板を訂正する書き込みを見かけるが、どれもがあの地図の表記を正として、現地の表示を訂正しようとしている。しかしあの地図ってそんなに正確でもないし、間違いも多い。ピンクのルート線があまりに適当に引かれているのはGPSでログを取ればすぐわかる。赤字で書き込まれた情報には、何十年前のだよって突っ込みたくなるものも多い。そして、山頂の位置もときどき大きくズレている。明らかに地図のほうが間違ってるのに、頑なに地図の表記に合わせるように現地の表示をを訂正しようとしている書き込みも見たことがある。こういう人が発生するから、しっかりしてくれよ旺文社!

この白岩山の場合はどうだろう。ロンデン尾根から北へ分岐する尾根は、立入禁止のフェンスの向こうだ。ほんとの山頂は立入禁止だから、こっちのコブを山頂にしてるという可能性もある。あちらのほうが標高も高い。確かめに行きたいが、そこは立入禁止のフェンスの向こうである。しかし、登山道に沿ってずっと張られているフェンスが、尾根の分岐点だけはひん曲げられぶっ倒されていて、普通に入れるようになっている。

ちょっと行ってみるか。やっぱ確かめてみたいもんな。フェンスの向こうは私有地で、侵入は犯罪になる。良い子は真似してはいけません。こんなことブログに書いていいのかなと思うけど、このブログを読んでるのは全国に3人しかいないからいいだろう。

緩やかな尾根には比較的はっきりした踏跡が付いていた。地形図を見ると、かつては登山道もあったようだ。しかし200mほど進むと、尾根が崩落していた。崩落地を慎重に降りてさらに進むと、崩れかけたヤセ尾根になってしまった。踏跡などまったくなく、ギザギザに尖った刃の上を歩くようになる。尾根は脆そうで、どれくらい崩れるかわからない。ロープが欲しいところだが、樹林帯なので木につかまりながら行けば落ちることはないだろう。足の置き場がないため、一歩づつ探るように進むしかない。藪になっている部分は通過が困難だ。時間をかけて数メートル進み、本日のミッションを思い出した。いかん、こんなところで時間を使ってる場合ではない。下山して温泉に入らねば。

幻の山頂まであと50m。ゆっくり進めば行けそうだったが、諦めて引き返すことにした。しかたない。山頂がどうなっているのか、あの地図上の表示がほんとに山頂なのか、ご存知の方は教えていただきたい。

金比羅尾根にもどり、再び縦走路を進む。登山道は尾根通しではなく巻き気味のトラバース路なので、登山道から外れて麻生山へと向かった。こちらは破線ではあるがルートになっている。破線であっても特に問題もなく山頂に着いた。

ルートをそれてまでわざわざ登ってくる人はいないだろうと大胆にくつろいでいたら、反対側からソロの男性が登ってきた。物好きはいるものだ。

麻生山から下り金比羅尾根との合流点まで戻ると、なにやらただならぬ様子で地図を広げて道標と見比べてる年配のご夫婦がいた。見るに見かねて話しかけると、自分たちのいる場所がまったくわかっていなかった。こんなところで迷う人もいるのだな。登り返すのはもう無理、とにかく早く下山してバスに乗って帰りたいとのことで、白岩ノ滝へと下っていった。

ところでこのとき、後から登ってきたトレラン野郎が話に加わってきたのだが、トレラン野郎は五日市へのロングコースだの、上養沢へのバリルートだのを提案してきて、ほんともうお前じゃまだから黙ってろという言葉が出かかった。トレラン野郎はみな自己中で人の話を聞かない低脳ばかりだという私の偏見が、また強化された。

時間は大丈夫そうだし、ここまで来たらあと少しなので、日の出山まで登っておくことにする。ずいぶん立派に整備された登山道を上っていくと、なつかしい山頂に出た。ここに来るのは何年ぶりだろう。いまのように遠征して山に登る習慣のなかったころは、ちょいちょい登りに来た山だ。

感傷に浸りたかったが、そんなに余裕はない。サクッと下山せねば。

下りはあっという間で、つるつる温泉に着いた。下山したところに温泉がある。完ぺきだ。

温泉でのんびり汗を流し、予定通りのバスに乗り、電車に乗り、計算通りに映画館に到着した。