静岡の山巡り最終章 – 登り尾

湯ヶ野温泉に車を停めて歩き始めた。

国道414号線は早朝にもかかわらず交通量が多い。

ここから登り尾を目指す。このヘンな名前の山が前から気になっていた。昨年末に登りに来たが、朝から雨で中止にした山行のやり直しだ。

ループ橋を歩いて登るのはさすがに憚られたので、沢沿いの道へ降りた。そのまま河津七滝まで進み、再び国道へと上がった。

最近続けて静岡に来ている。今年は静岡の山に通うつもりだった。登りたい山をいくつもピックアップしていた。この登り尾もそんな登ってみたい静岡の山のひとつだった。

静岡の山に通おうと考えたのは、仕事の関係でだ。金曜の夜に相模原の職場から出発するとすれば、なかなかいい選択だと思う。それが、まさかの転勤となってしまった。今度は東京の東の端だ。静岡からはだいぶ遠ざかってしまうので、静岡の山もしばらくお休みとなりそうだ。まあ、東北がちょっと近づいたかな。

歩き始めてからすでに1時間半が経過しているのに、いまだ舗装路を歩いている。これは駐車場所の選択を誤ったか。ここまでに無料の駐車場を三ヶ所も通過している…。

取付き点と思われる付近の国道には、道標類はまったく見当たらなかった。林道はあったが、登山道は無さそうだった。しかたない、とりあえずこの林道を登るか。方向が違うように見えるけど、おそらくうねうね曲がって上がっていくだろう。

泥々の林道を小一時間も登ると、尾根との接点に来た。林道は再び尾根から離れてうねうねと上がっていく。ここで山に入るとするか。なんの表示もないけど、ここでいいはずだ。あとはこの尾根を登っていくだけだ。

よく見ると入山ポイントの細い木に、色あせたビニールテープが巻いてあった。まったく目立たない。普通は見逃すだろう。これが、この日初めての登山道のしるしだった。

ここから登り尾の山頂までは、たいした距離ではない。ここまで来るのが長かったが…。

登り始めは登山道らしきものがあったが、すぐに踏み跡くらいの薄さになり、やがて消えた。尾根を登るだけなので間違えることはないが、ジグの切ってない急斜面の直登は、ずるずる滑り落ちて消耗する。

ここって登山道じゃないのか? 登山地図にはピンクの実線が引かれているけど、それを信じて登ると戸惑う人も多いだろう。でも、こんな山道は歓迎だ。道のない山を登るのは楽しい。いや、これこそが山の楽しさじゃないか。整備された登山道っていう人工物の上をイージーに移動して楽しいのかなと疑問にも思う。それに、こんな山なら登ってくる人はほとんどいない。実際に今日はまだ誰にも会っていない。山の混雑を嫌う人は多いが、混雑が嫌ならこんな山に登ればいいだけなのにとも思う。

それにしても花粉が酷い。東京の西の端というなかなか花粉の濃い地域に住んでいて、それなりに耐性はあると思ってたが、ここはほんとに酷い。鼻水が止まらない。やっぱ、あの雪の日に登っておけばよかったかな。

地味ながら味わいのある尾根をひたすら登っていくと山頂に着いた。山頂も地味だ。展望もない。うん、いいよねこういう山も。

登ってきたのとは反対側の林道からも来れるのだが、そちら側から来た人に向けてだろう、この先は下山が困難だから引き返してという看板があった。そりゃそうだよね…。

山頂から先は比較的平坦で、道もまあまあはっきりしていて、とはいえところどころ踏み跡は消えるし、完全整備のいまどきの登山道とは違う。それでもここまでの消滅した登山道を登ってきたのに比べればはるかに簡単だ。

しばらく歩いて反対側の林道に出た。ここは以前に、旧天城トンネルを抜けて八丁池へ向かうときに歩いたことがある。

今回はこの道を下っていく。旧天城トンネルへは向かわず、河津川まで降りてから河津七滝の遊歩道を抜けて湯ヶ野温泉まで戻る。

遠いな…。なんであんなとこに車を置いたのかと自分に愚痴も言いたくなるが、いやいや違うよ、帰り道は遠ければ遠いほどいいのだよと思い直した。

その間にだって、たくさんの風景が待ってるのだから。