雲の海に光る峰 – 有明山

重く立ち込めた灰色の雲がじわじわと薄くなり、やがて青空が透けて見えた。

ん? 突き抜けるかな?

ここまでずいぶん登ってきた。山頂までの標高差はもういくらもない。できることなら雲の上に広がる青空の下の頂に立ちたい。

ずっと北アルプスらしからぬ荒れた登山道だった。倒木と藪で踏み跡が見えず、地形図を見ながら進んだ箇所もあった。歩くと音を立てて崩れていく崩壊地の登りもあった。

鬱蒼と立ち込める高い木々に囲まれ、辺りにはガスが充満している。遥かなる時を刻んだ暗い森。光の射さない湿った土と苔生す原生林。薄い靄が空気のように揺蕩っている。そんな景色も悪くはないが、何時間も続くとやはり青い空と清い空気と遥かなる峰々が恋しくなる。

綿毛のような雲がさらに薄くなり、空の青が濃くなっていく。

そして2100m付近で雲の上に出た。

突き抜けたな。

足元には雲海が広がっている。見事な、どこまでも続く雲海だ。

常念山脈や後立山連峰が雲の海に浮かんでいる。

登ってよかった。

天気予報は晴れだったのに、登山口からずっと灰色の厚い雲に覆われていた。ここまで登ってようやく目にすることのできる青い空だ。これだと、麓の天気予報は大ハズレである。

雲の上に出てしばらくすると、有明山の山頂だった。

静かで誰もいない。

隣の二百名山は、きっといつも通りの大混雑なのだろう。でも、同じ二百名山だというのに、こちらに登ってくる人は多くはない。山ブームと言われて久しいが、山のブームにはずいぶん偏りがある。

祠のある山頂から少し奥へと進むと、三角点のあるピークであった。こちらが本当の山頂なのかな?

さらに奥の見晴らしのいい場所にも綺麗な祠があった。そしてそこから少し下ったところには打ち捨てられた祠が。

祠の多さが、この山が信仰の山であることを物語っている。麓には有明山神社があり、山全体が御神体なのである。

薮っぽい木々をかき分けてさらに奥へと進むと、行き止まりには立派な祠があった。ここが奥宮だ。手入れの行き届いた様子から、いまでも大切にされてることが伺える。

最初の祠のあった頂もなかなかの眺めだったが、常念山脈を真向かいに望む二番目の祠のピークが最も気持ちが良さそうだ。そこまで戻って、食事をしてから下山することにしよう。