紅花とひな祭り – 河北町谷地

だだっ広くて中心街が無い。町歩きには最も適さないタイプの町だ。公共交通機関もほぼ無いと言ってよく、完全に車社会なのだろう。実際に、歩いてる人を見ることは稀である。

山形県西村山郡河北町谷地、観光地というわけでもなく、わざわざ訪れる人がそれほど多いとも思えない。

古い町並みがわずかに残っているというので、てくてく歩いて見に行った。

それは町並みというほど密集してはなく、というか立派なお屋敷が二軒並んでいるだけなのだが、そのお屋敷の規模に圧倒された。

鈴木家と細谷家の二軒の豪邸は、江戸時代に特産品の紅花の商いで財を成した豪商のお屋敷である。谷地は最上川の水運の利にも恵まれて、紅花の集散地として繁栄を極めた。谷地に集められた紅花は最上川を通って酒井港から北前船で京や大阪へと運ばれた。同時に逆経路で上方の文化もこの地に伝えられたのだ。閑散とした現在の姿からは想像し難いが、県内では山形に次ぐ規模の町であったという。

ひな市通りと呼ばれるこの通りでは、いまでも旧暦のひな祭り近辺の週末に市が立ち、旧家に保管されている時代雛の逸品が公開される。その時ばかりは谷地の町にも往時の賑わいが戻るのだろうか。

ひな市通りから2kmほど離れた町の外れにも、二軒の豪商の屋敷が残っている。

堀米家はお堀や長屋門を備えていて、他の豪商の屋敷よりも格式が高く、現在は紅花資料館として活用されている。だが、この日はGWの晴天の一日だったにもかかわらず、駐車場には県内ナンバーの車が一台停まっているだけだった。

堀米家の斜向かいの安倍家は空き家になっていて、門は閉ざされていた。観光資源として活用しようにも、財政も人材も厳しいのだろうか。

谷地が再び繁栄する日はもう訪れないかもしれないが、往時の姿を多少なりとも感じさせてくれるであろうひな祭りの日に、また訪れてみたい。

2024年5月