冬の始まり – 赤岳

今年もまたここへ来た。毎年、冬の初めに訪れるこの場所へ。

ここから雪の着いた赤岳を眺めると、いよいよ冬だなって気分になる。

天気は最高。空は青く、風は穏やかだ。

阿弥陀や中岳も美しい。

地蔵の頭のちょっと先のいつもの場所に座り、ひとしきり風景を堪能したら、いよいよ山頂への最後の登りに取りかかる。

雪の斜面をひたすら登る。登り続けるうちに、無心になっていく。自分と世界の境界線が失われていく。この時間が最高の瞬間。

どうせ登るなら登ったことない山に登りたがるし、同じ山に登るにしても、歩いたことのない尾根や、知らない季節に行きたがるのだが、なぜだかこの季節のこのルートだけは、なんど歩いてもまた歩きたくなる。そういえば逆回りで歩いたこともない。こっち周りが好きなのだ。

山頂からは、横岳硫黄岳天狗岳から蓼科山へと連なる稜線。真っ白な北アルプス。噴煙を上げる御嶽山。奥秩父の深い山並み。権現岳の向こうの北岳甲斐駒仙丈ヶ岳。それに富士山も。

360度ぐるりと全てが見えている。

申し分のない日だ。静かで美しい冬の始まりの日だ。

山頂の祠の裏側に回り、阿弥陀岳を正面にして座った。

あとは下るだけ。時間が許す限りここにいよう。