即身仏を訪ねて – 酒田市 / 鶴岡市

仏の姿でこの世に留まり人々を救うため、その躰を現世に残した僧侶たちがいた。厳しい修行の果てに、自ら望んで即身仏となったのだ。信仰上は生きて祈り続けているとされる即身仏だが、科学的には僧侶のミイラである。しかし、自らの意思でミイラとなることを選択し、そのために禁欲的な修行を続けた点では、死後にミイラ化の処置をされた他のミイラとは違う。

湯殿山系の真言宗寺院は即身仏信仰の中心地であった。そのため庄内地方には多くの即身仏が安置されている。日本全国に現存する17体の即身仏のうち、6体が庄内にある。山形県内には他に2体、隣接する新潟県に4体、あとは福島県、茨城県、長野県、岐阜県、京都府に1体づつだ。

酒田市内の海向寺を訪ねた。この寺には、忠海上人、円明海上人の2体の即身仏が安置されている。旧市街地の外れの高台に、他の寺院と並んで海向寺はあった。ひっそりと静かで、参拝客の姿もない。

即身仏は本堂とは別の建物に安置されている。受付に人はいなく、呼鈴を押すとしばらくして年配の女性が現れた。拝観料500円を支払って建物内部に入ると、即身仏が安置されている部屋へと通された。女性は線香に火を灯し、祈りを捧げてから厨子を開帳した。

即身仏は、想像以上に小さかった。当時の日本人は今よりずっと小柄だったし、骨と皮だけに縮んでいるとはいえ、ちょっと大きめの五月人形くらいにしか見えない。しかしそれにしても、いったい何が彼らをここまでさせたのだろう。複雑な心境で眺めていると、部屋の片隅に立っていた受付の女性が、即身仏の解説を朗々と語り始めた。

即身仏となることを決意すると、まずは厳しい修行の期間を過ごすことになる。五穀を断ち、木の皮や木の実だけを食べる木食を数年間続ける。すると、まずは脂肪が落ちて、後には筋肉も減っていく。

いよいよとなると、甕に入って地中に埋まる。穴の深さは3メートルもあったが、竹筒で空気だけは取り入れることができた。僧侶の鳴らす鈴の音が地上に聞こえなくなったら入定だ。生きながらにして極限まで脂肪や筋肉を削ぎ落とした即身仏は、エジプトのミイラのように内臓処理を施す必要もなく、掘り出されたそのままの姿で腐敗することはなかったという。

女性の解説はとても長く、澱むことなく続く。ただ一人の参拝客のためにだ。これだけでも500円の価値はある。

二人の僧侶が即身仏となったのは、それぞれ55歳と58歳の時だった。現代ならまだまだ若いと言われる年齢だ。人にそこまでの行為をさせるのは信仰の強さなのか、あるいは我欲なのか、あるいは狂気の沙汰なのか…

境内には、円明海上人が土中入定を行った穴を埋め戻した場所に石碑や石仏が安置されていた。この土の下3mでと想像すると、尊さよりも恐怖が勝った。

もう一寺、鶴岡市内の南岳寺を訪ねた。

やはりこの寺も本堂とは別の建物に即身仏が安置されており、入口の呼鈴を鳴らすと年配の女性が現れた。拝観料も同じく500円で、部屋の片隅に立ち、朗々と解説を吟じるのも同じだ。

即身仏になるには、千日から五千日の修行が必要だったという。五千日というと13年以上だ。その間ずっと木食である。

南岳寺の即身仏となった鉄竜海上人は、生前に疫病治療祈願のため左目をくり抜いたという逸話がある。やはりなかなかの狂気である。若い頃には人を殺めて逃走し、南岳寺の住職に拾われて入門したなど逸話の多い人物である。

本堂も社務所もやけに新しい建物だなと思っていたら、1956年に火災で全焼して後の再建だそう。そしてこの火災でも、本尊と即身仏だけは焼けずに残ったという。

2025年4月 – 5月



Warning: Undefined array key "sns_fb_apptoken" in /home/azuwasa/azuwasa.com/public_html/wp-content/themes/luxeritas/inc/sns-cache.php on line 86