槍穂高の大展望 – 蝶ヶ岳

テントに寝袋、調理器具、水と食料。一泊分の荷物がいつもより余分に詰まった大きなザックを背負って、風景の変わらない樹林帯の急登を登る。

ザックの重さが足にきて、ペースが落ち、いいかげん歩くのに飽きてきたころ、唐突にこのとてつもない眺望が目の前に現れる。

稜線目指して登っているあいだも、麓の街からも、いま登ってきた手前の山脈で隠れていて、この眺めは見ることができない。

ここまで登って初めて目にすることができる風景なのだ。

穂高から槍までの稜線を端から端まで見渡すことができる。

どこが大キレットかはっきりわかる。

ゴツゴツした岩の隆起も、ひとつひとつ区別できる。

空の色が移ろいゆくにつれて、風景もその趣を変える。

いつまで見ていても飽きることがない。

日が沈み辺りが暗くなるまでずっと、このとてつもない風景の前から動くことができなかった。

2013年10月