石川県の郷土料理 その1 – 治部煮 / 金時草 / ブリ / 黒作り / どじょうの蒲焼き

加賀料理には気品がある。江戸、大阪、京の三都に次ぐ大都市だった金沢では、加賀百万石の財力を活かして独自の文化が発展した。食文化も個性的で、独自の郷土料理や食材が豊富だ。

城下町金沢の武家文化を代表する料理は、なんといっても治部煮だろう。名前を知っていても、食べたことのある人は少ないかもしれない。小麦粉をまぶした鴨肉を、すだれ麩や季節の野菜と煮て、わさびを添えている。汁には小麦粉が溶け出てとろみが付いており、治部煮専用の口が広いお椀で供される。武家料理としての格式が感じられるが、庶民も野鳥を仕留めて治部煮を作っていたという。

発祥も名前の由来も諸説あってよくわかってないらしい。元は宣教師が伝えたポルトガル料理だったという説や、じぶじぶ煮るからじぶ煮になったという説もある。

加賀野菜も金沢を代表する食材だ。金時草、源助大根、加賀蓮根に金沢春菊あたりがよく知られているものになるだろうか。その他も含めて全部で15種類の野菜が加賀野菜として認定されている。一時期は形の整ったスーパーの野菜に押されて廃れていたが、地物が見直されるようになって復活した。お店では、おでん種になったり、天ぷらにしたりして食べられている。

金時草の酢の物は金沢料理のお店ならだいたいどこにでもある。茹でると出るぬめりに、しゃくしゃくした食感と爽やかな風味の個性的な野菜だ。

海産物ももちろん旨い。北陸の新鮮な海の幸は、多くの人にとって金沢旅行のメインイベントだろう。

ブリと言えば、ブランド化に大成功している富山の氷見ブリが圧倒的に有名だが、能登のブリも負けてはいない。同じ海で獲れるのだから当然と言えば当然である。

油の乗った冬のブリは格別だ。ぶり大根も良いが、やはり分厚い刺身でいただくのが一番だと思う。

黒づくりとは、イカ墨を加えたイカの塩辛のこと。イカ墨の旨味が加わって、普通の塩辛よりも味に奥行きがある。これを食べてしまうと、普通の塩辛(赤作りと呼ばれるらしい)には戻れなくなるかもしれない。

一般的には富山県の郷土料理とされているようだが、石川県でも黒作りはよく食べられている。富山も石川も同じ文化圏なので、食文化にも共通点が多い。

水を張った田んぼから湧き出るように生まれてくるどじょうは、かつては庶民の身近な食材で、全国で食べられていた。

金沢のどじょうの蒲焼きは、どじょうをぶつ切りにし、串を打って甘辛いタレで焼き上げている。パリッとしていて、もちろん骨まで食べられる。かつては子供のおやつにもなる庶民の食べ物だったどじょうも、今ではほとんど獲れなくなってしまい、すっかり高級品になってしまった。

金沢は食べ物の美味しい町だった。食べてみたいものすべてを食べるなんて一度の旅行ではとてもできない。

美味しい郷土料理を求めて、また金沢へ行かねばならない。