汁で呑む – じゃっぱ汁 / けの汁

汁物で酒を飲むのが好きだ…と言うと、けっこうな確率で怪訝な顔をされる。一般的にはあまり流行らないとわかってはいるが、液体を肴にして液体を飲むのも悪くない。洋食のスープにワインも良いし、広東料理のスープは材料費と手間ひまをかけた逸品だ。和食には出汁という素晴らしく美味しい汁がある。蕎麦屋の〆を汁そばにして、蕎麦を食べ終わってからも汁で日本酒を飲み続けるのは幸せな時間である。

弘前でも津軽っぽい汁物をと探したが、意外とメニューにない。やっぱり居酒屋で汁物を注文する人は多くはないのだろう。

ようやく一軒の居酒屋で見つけたのがじゃっぱ汁だった。

「じゃっぱ」というのは漢字で書くと「雑把」となる、大雑把の雑把だ。雑にまとめられたものというほどの意味で、じゃっぱ汁の場合は魚のアラを指している。じゃっぱ汁の魚は主に鱈が用いられる。鱈のアラと大根やネギを煮て味噌で味付けした、いわゆるあら汁である。

鱈は冬が旬であり、じゃっぱ汁も寒い冬に体を温めるのに良いため、主に冬の食べ物のようだ。津軽の年取り魚は鱈なので、それとも関連して冬のご馳走である。真夏にじゃっぱ汁を食べてしまったが、凍てつく冬の浜辺で漁師が作る熱々のじゃっぱ汁を、ふうふう言いながらいただくなんてのに憧れる。

けの汁も津軽を代表する汁物だ。大根、にんじん、ごぼうといった根菜類、ふき、わらび、ぜんまいなどの山菜、それに凍み豆腐や油揚げ、家庭よってはこんにゃくやキノコなどもを5mm程度の細かいさいの目に刻み、昆布出汁で煮てすり潰した大豆を加え、味噌を溶いて仕上げる。山の恵みの味噌椀だ。動物性の食品を使っておらず精進である。小正月の食べ物で、大量に作って温め直しながら数日かけて食べるのが慣わしだそう。

これはとても食べてみたかったが、残念ながら提供しているお店を見つけることはできなかった。流行りそうもない食べ物なのでわからなくもない。しかしビニールパック入りの製品を見つけたので、買って帰って自宅で食べることにした。

いざ、けの汁をというところでようやく気づいた。これは完成品ではなく、けの汁用に細かく刻んだ根菜と山菜の水煮だ。いちおう味見してみたが、まったく味はついていない。どうやら、細かく刻む作業がめんどうで敬遠されがちだったけの汁の衰退を防ぐために考案された商品で、こういった製品によって再び家庭でも作られるようになっているらしい。

しかたないので自分で作る。凍み豆腐と油揚げを買ってきて細かく刻み、昆布で出汁を取り、大豆を水でもどして潰す。味噌で味付けするのに、さらに潰した大豆を加えるのは意味があるのかな?と疑問に思わなくもないが、どのレシピでも必ず入れているのでそれに従う。なんとなくネギなんかも入れたくなるが、ネギを使うレシピはひとつもなかった。

できあがったのは具沢山な汁だった。鍋にいっぱいできたので、数日かけて食べた。

どちらかといえば西日本の民の自分にとって東北は、特に北東北は異郷だ。町も人も食べ物も、慣れ親しんだものはひとつもない。学生時代に初めて東北を旅した日々はカルチャーショックの連続だった。今ではそれなりに慣れたし知識もついたし、東北も国内平準化の影響で異世界感が薄れたが、それでもやはり異郷であることに変わりはない。

東北旅行は海外旅行にも通じる刺激がある。