竹岡式ラーメン

内房の真ん中やや下、いまは富津市の一部になっている旧竹岡村には、竹岡式ラーメンと通称されるラーメンが存在する。

その特徴の第一はスープだ。チャーシューの煮汁をお湯で割っただけのスープは、真っ黒な見た目以上に醤油が強い。豚肉から出る旨味だけなので、現代的な旨味と甘味の濃いスープからはかなり遠い。そしてなぜか、どんぶりいっぱいキワキワまで、ちょっと揺らすと溢れるほどにスープが注がれている。

スープに使えるくらいだからチャーシューは大量に作られる。普通のラーメンでも大きな肉の塊がゴロゴロ入っているが、チャーシュー麺にするとかなりの肉量を食べることになる。麺は乾麺を使用しているらしい。シンプルでストレートな中細麺だ。薬味は玉ねぎの店が有名だが、ネギの店もある。

元々は漁を終えた漁師の食べ物だったのだろう。肉体労働の男たちの腹を満たすために、やたらと量が多い。魚を食べ飽きた漁師たちのために、塊肉をガツンと食べさせる。普通のラーメンでもなかなかの量だが、大盛りチャーシュー麺など食べると、炭水化物と肉と塩分で、その日はもうなにも食べられないくらいに腹がふくれる。

味が濃いのも、肉体労働で失われた塩分を補うとともに、ラーメンをおかずにして白ごはんを食べる意味もあるのだろう。昔からある竹岡式ラーメン店にはラーメンとチャーシュー麺しかないが、ライスは必ずある。

店のおばちゃんたちも特徴的だ。なぜか注文を紙に書かず、座席も適当に好きなところに座らせて相席も多いため、しばしば注文が混乱する。地元の顔見知りだけを相手に商売していた名残りであろうか。

元々は漁師の食べ物だった竹岡式ラーメンも、いつしか人気となり、いまでは週末になると他所からの来店者で長蛇の列ができる。リピーターも少なくないらしい。

だが、何度も食べに来てる客に感想を尋ねてみても、今まで食べたラーメンの中で最も美味しいラーメンだなんて絶対に言わないだろう。もしかしたら、マズくはないけど美味しいとは言い難いと答えるかもしれない。

そう、大きな声で美味しいとは言えないが、なぜだかまた食べたくなってしまう、そんなラーメンなのだ。

竹岡式ラーメンを都内で出しても、まったく流行りそうもない。千葉の海沿いの空気の中で、ゆるいおばちゃんたちに囲まれて食べてこそのなにかがプラスされて、また竹岡まで出かけてしまうのである。