裏銀座の五日間 day4

うーん…。いまいち…。

夜が明ける前に烏帽子岳へ登り、日の出を待っていたが、雲が多めで綺麗な朝焼けにはならなかった。

40分くらい粘ったけど、これ以上は望めそうもないので、あきらめて先へ進むことにする。まあ、太陽が出てるだけでも良しとしよう。

烏帽子岳を過ぎると、それまでの縦走路とは雰囲気が変わった。

歩く人も多くはない。ウェーイ系の若者グループや年配者の一団はここまで来ない。道も、それまでに比べればやや頼りなくなる。人によっては荒れていると感じるかもしれない。

南沢岳、不動岳と大きな山を越えていく。樹林帯まで大きく下ってから、再び森林限界を越えて登り返すことになる。体力を消耗し、体温が上がる。

左手には立山、進む先には後立山がよく見えている。静かで美しい山歩きだ。

三度目の大きな登り返しで船窪岳第二ピークに到着した。そこから小一時間かけて船窪岳へ登り、わずかに下ると船窪乗越である。あとは船窪小屋までひたすら登りが続く。

この最後の登りがキツかった。さすがに疲れてきて、足が上がらない。容赦ない登り坂が続いている。まだかまだかとジリジリ登り、ようやくにして船窪小屋のテント場に着いた。

テントを張り、ひどく足場の悪いガレ沢で水を汲んでから、15分ほど離れた小屋まで受付に向かった。

受付をすませると、もうすることもない。小屋の前では小屋泊まりの方々が賑やかにビールを飲んでいる。いいな、ビール。そういえばここまで四日間、水か焼酎しか飲んでない。

楽しそうな登山者たちと美味しそうなビールは目の毒なので、その場を離れ、小屋からすぐの七倉岳へ登った。小屋前の喧騒はここまで届かない。

さて、明日はどうしようと考える。このまま縦走路を歩いて蓮華岳を超え、針ノ木小屋から扇沢へ下る、そんな計画も頭に描いていた。もう二日あればまちがいなくそうするのだが、明日一日で縦走して下山して帰宅するのは少々気の遠くなる道のりだ。

下山したら何を食べようか。いや、その前にまずは風呂だ。まずは五日間の汗を流したい。それからビール。さっきのビール、美味しそうだったよな。ビールのつまみは何がいいだろう。いつものように車なら背脂ギトギトスープのチャーシューメンを食べるのだが、ビールを飲むなら他のものがいい。そうだ、餃子にしよう。ビールと餃子、なんて素敵な組み合わせなんだろう。餃子は二人前を注文しよう。ビールと餃子二人前、考えただけで夢が膨らむ。

潮時だな。明日もう一日がんばって長時間歩くほど、いまの自分はストイックになれそうもない。ここから七倉へ下山すれば、昼にはビールと餃子にありつける。扇沢まで行くと、ビールは夜になってしまうだろう。

ガスが切れて山々が姿を現した。縦走路の先には厳つい蓮華岳が聳えている。今回はあそこまで届かなかった。でも必ず近いうちに続きを登りに、再びここへ来るだろう。左手奥には雄大な立山がどっしりかまえている。あそこにも行かなくちゃ。雲ノ平を超え、スゴ乗越を越えて。

どうやらここが、旅の終わりの場所のようだ。

明日はもう下山するだけだと思うと、ちょっぴり切なくちょっぴり嬉しい。

完全にガスが上がり、周囲が全く見えなくなるまで、ずっと山頂にとどまっていた。

つづく