道のない尾根、西日に輝く山頂、天学教のこと – 滝入ノ峰 / 酉谷山 / 天祖山

ヨコスズ尾根を30分ほど登ったところで登山道を外れた。登山道はここから2kmの間ずっと尾根を巻いていくのだが、今回は尾根上のピークを目指す。

取りかかりだけは落ち葉で滑る急斜面だったが、そこを登り切ればあとは穏やかな尾根道だ。葉を落とした木々の向こうに青空が広がる。

気分良く歩いて滝入ノ峰に到着した。静かで暖かい冬晴れの日だ。

滝入ノ峰からザレた斜面を下ると登山道と合流した。尾根道では多少時間がかかったが、ここからは一気に天目山まで登った。やっぱり整備された道は歩き易さが違う。

天目山からは長沢背稜を行く。長沢背稜も基本的にほぼ巻道で登山道が付いているが、できるだけ稜線上を歩くことにした。整備された平坦な道を行くより、このほうが楽しい。

雪の積もった冬に来て、山頂がどこだかよくわからなかった七跳山の場所も確認することができた。

稜線は楽しいが、やはり疲れる。それに時間もかかってしまう。不本意ながら坊主山は巻いて、酉谷山に向かった。

酉谷山に到着したのは、午後の遅い時間だった。傾きかけた日の光に、草木が暖かく染められていた。

日の当たる場所に腰を下ろした。

ここに来るのは三度目だけど、こんなに美しい日は初めてだ。

時間がゆっくりと流れていく。

翌日は長沢背稜を水松山まで進み、そこから下山する。

雲取山がだいぶ近くなった。降り注ぐ日の光が美しい。

コルまで下ってから登り返し、1時間ほどで天祖山に到着した。

天祖山の広い山頂の中心は天祖神社である。植林したのであろうか、ここだけ杉木立に囲まれていて、周囲の明るさとは異質の雰囲気を醸し出している。

この天祖神社は、天学教の神社である。天学教というのは、明治初期の神道系の新興宗教であり、開祖の服部国光がここで修行したことにより、天祖神社が建立されることとなった。それまでは白石山と呼ばれていたこの山も、いつしか天祖山という名になった。

服部国光は、奥多摩には縁のなかった神奈川県の人物である。出身地の横浜市青葉区には、いまでも天国教会という名の天国教の本部がある。服部国光がなぜこの地を選んだのかは不明だが、奥多摩周辺の農民には信者が多かった。現在の奥多摩にはほとんど信者はいないようだが、毎年8月には登拝が行われているという。

山頂からわずかに下ると会所があった。さらに下ると小さな社や崩れかけた神社もあり、ここが信仰の道であったことが伺える。

天祖山を越えて下るこのルートは、奥多摩でも事故の多い場所のひとつである。確かに後半は荒れ気味で急峻な道にはなるが、滑落にせよ道迷いにせよ、どこでそんな事故が起こるのだろうと不思議ではあった。

この急登を登って行われるという8月の登拝、8月1日の山開きはどんな様子なのだろう。その日に再び訪れてみたい。

2020年11月