西丹沢周回 その1

今年初めての、山に行かない週末を過ごした。

なにかと忙しかったのもあるけど、それが理由ではない。山に行かなかった(行けなかった)のは、前の週のグダグダ山行を引きずっていたからだ。気持ちがもやもやして行く気にならなかったのだ。なぜあんなにグダグダになったのかと。

ゆっくり休んで、なんでああなっちゃったのか、どうしたらいいのか、よく考えた。もう大丈夫だと思う。先々週の自分からバージョンアップしてるはずだ。してくれてないと困る。

ニュー バージョンを試すのに適当なところはどこかと探し、西丹沢へ向かうことにした。西丹沢自然教室から檜洞丸、大室山、加入道山、畦ヶ丸をぐるっと一周してくるのが、距離も手頃で適度にアップダウンもあり、標高も高くないので残雪も少なく、黙々と歩くにはうってつけだろう。

檜洞丸への一気の登りを登っている途中で、残雪がでてきた。残雪といっても緩んだグズグズの雪ではない。しっかり踏み固められてガチガチに凍ったアイスバーンだ。グズグズもドロドロもいやだけど、ガチガチはつるっと滑って滑落の危険も伴う。

檜洞丸から犬越路へと、急斜面を下っていく。

北側斜面であり、ガチガチのアイスバーンが登山道に張り付いている。夏道なら問題ない場所でも、氷の斜面となると話が違う。

急な階段を慎重に下っていくと、やがて階段はなくなり、両側が切れ落ちたヤセ尾根の急斜面となった。分厚いアイスバーンが張り付いていて、まるで氷の壁を下るみたいだ。

こりゃ困った。

ピッケルがあれば下れるが、ストックしかもってきてない。足元はアイゼンでなくチェーンスパイクだ。試しにストックを使ってみたが、ガチガチの氷には全く刺さらなかった。バランスを崩さないように支えるくらいしか役に立ちそうもない。

あとはチェーンスパイクの小さな爪を頼りに下るほかない。前爪もホールドもないので後ろ向きには下れない。前向きに下るのは怖すぎて無理だ。

しかたなく半身になって、ゆっくりと半歩を踏み出した。チェーンスパイクの頼りない爪をどこまで信じていいのかわからず、体重をかけるのに躊躇する。つるっと滑ったらただ事ではすまない。体の幅くらいしかない狭い尾根だ。左右も前も切れ落ちた絶壁のように見える。滑り落ちても、氷の斜面につかまるところはない。体を止めるピッケルもない。絶対にミスできない。

踏み出した足に恐る恐る体重をかけていく。足は動かない。止まっている。行けそうだ。どうやら小さな爪が効いてくれているようだ。

ストックでバランスを取りつつ、後ろの足を前の足と同じ位置にもってくる。そしてまた、半歩踏み出し、チェーンスパイクの効きを確かめて、バランスを取りつつ後ろの足を半歩前に出す。

めんどうだけど、そうするしかない。距離はそれほど長くはない、集中して下りきれば、ひとまず緩やかな斜面になる。

なんとか無事に下り切ったときは、緊張と集中でどっとつかれた。

このあとも、まだまだ凍結した斜面は出てきた。先ほどのような急傾斜はなかったし、岩場の下りにはクサリが設置されていたが、だからといって油断すると危険だ。一歩ずつ慎重に進んでいく。

標高を下げるにつれて氷も薄くなり、やがて土が見え、傾斜も緩やかになったころ、前方に犬越路の避難小屋が見えてきた。

これでホッとひと息つける。今回のコースで最も難しいと思われる場所も、これでようやく終わりだ。