山頂デザート @茅ヶ岳&金ヶ岳

ふぅふぅ。はぁはぁ。ふぅふぅ。はぁはぁ。

平坦な山道は女岩で終わり、そこから先は急な登りが続きます。いつもより重いザックが、肩腰背中にズシリと堪えます。

つかれてきてもペースを落とせません。立ち止まって息を整えるなんてもってのほかです。後ろには、山の大先輩S子さんが続いています。これくらいの登りでヘタれた姿を見せられません。稜線を目指して、全力で必死に登ります。前穂高岳北壁を軽々と登ってしまう屈強な岳人のS子先輩は、涼しい顔で茅ヶ岳への急登を上ってきます。

深田久弥先生終焉の地で、ひと息つかせていただけました。

ここに来てようやく展望も開けて、奥秩父や富士山がよく見えています。

「こんな山の中で死んでしまって深田さんは幸せだったのかな」S子先輩がポツリと言いました。

さすが先輩、ここまで登ってきても人の死に際の気持を考える余裕たっぷりです。とりあえずわたくしは自分のことで精一杯です。

山頂まであとひと登り。重い荷物を背負って岩がちな登山道を登ります。

ふぅふぅ。はぁはぁ。ふぅふぅ。はぁはぁ。

茅ヶ岳の山頂は360度の大展望。雲が多くて空は薄灰色ですが、奥秩父に富士山に南アルプスも八ヶ岳も北アルプスも、全てがはっきり見えています。

「曇ってるけど、これなら許す。うん、これなら許す」とS子先輩。

許していただきまして、ありがとうございます。

時間もまだ早いので、金ヶ岳まで行って昼ごはんにすることにしました。

茅ヶ岳から先は北側斜面で、まだ雪も残っており、凍結していて滑ります。S子先輩は、すかさずアイゼンを装着しています。さすが、超大型台風による山体大崩壊の南アルプスから脱出するなど、数多の危機を潜り抜けて生還してきたS子先輩、危機管理能力が凡人とは違います。凡人のわたくしはいつも、めんどくさくてアイゼン付けずに突っ込んで、自ら危機を招きます。

下って登ってここが山頂かなと思ったとこからさらに、ちょっと下ってちょっと登って、1時間ほどで金ヶ岳に着きました。

木々が茂っていて周囲の山々はよく見えませんが、唯一開けた南側には鳳凰から甲斐駒への大きな稜線が広がっています。

ようやくここで荷物を軽くすることができます。

まずは麓から担ぎ上げたビールをS子先輩におつぎします。親しくさせていただいておりますが、世が世なら神様と奴隷の関係です。ビール背負って登れという先輩命令には、絶対に逆らえません。わたくしは運転手も兼ねているので飲めません。全てS子先輩のビールです。ぬるいビールをお飲みいただくわけにもいきませんし、そもそもが要冷蔵の生ビールなので、クーラーボックスに入れ、保冷剤をぎっしり詰めて担いできたビールです。

ビールとつまみと昼ごはんでいい感じになったころ、S子先輩がデザート作成にとりかかります。屈強な岳人であるS子先輩は、人間国宝級の山頂デザート師でもあるのです。

そうしてあっというまに完成しました。プリンのなんとか!!

プリンの他に、果物いろいろに生クリームに、あとなんかカステラみたいのが入ってます。これらを全て山頂まで担ぎ上げて作るのです。さすがキスリングに石を詰めて訓練してた人は根性が違います。

おいしいコーヒーもいただき、本日のメインイベントも終了したので、茅ヶ岳へもどります。

茅ヶ岳に着くころには、ようやく青空も広がってきました。

いつまで見ていても見飽きないですが、そろそろ下山します。

帰り道では足を滑らして転んでしまいました。だいたいいつも帰り道では気が抜けて転ぶのですが、この日はS子先輩の手前、緊張感を持って歩いていたと思います。それでも転んでしまったのは、常に後ろからプレッシャーをかけられ続け、全神経が背中に集中していて、足元が全くおろそかになっていたからに違いありません。いえ、もちろん先輩にはなんの非もございません。わたくしが全面的に不甲斐ないだけです。

ようやく駐車場までもどったときは、体も心もぐったりつかれていました。S子先輩は涼しい顔で、ジャムなどお買い求めになっておられました。

と、ここまで読み返して、わたくしのこの拙い文章で、S子先輩へのリスペクトが伝わるのか不安になってきました。はたしてこれをこのまま公開していいものだろうかと悩みます。万が一にもお気に召さないことを書いていたら、次にお会いした時にシバかれそうです。なので、最後にひと言だけ付け加えて、この項を終わりたいと思います。

このブログ記事はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

2015年3月

 

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